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考える力を育む「“正解”のない問いに向き合う学問」。親子で哲学対話をしてみよう

公開日:2023/09/03
最終更新日:2023/09/06

「難解な学問」というイメージのある「哲学」。でも実は、哲学的な問いや考え方は私たちの生活に身近なことが多く、大人から子どもまで親しむことができるといいます。最近は、子どもの育ちの一助となる「哲学対話」への注目も高まってきているのだそう。
そこで今回は「哲学」と親子でも楽しめる「哲学対話」の魅力について、「NPO法人こども哲学・おとな哲学 アーダコーダ」理事で、東海大学 児童教育学部 児童教育学科の講師でもある天野美和子先生にお話を伺いました。

 


◆「哲学」と「哲学対話」って何?
「哲学」と聞くと「難しい」「理解できない」といったイメージを持つ人も少なくないのではないでしょうか。「確かに、学問としての哲学の本や考え方には、難しい言葉が使われたりしているので、難しいと感じる人も多いかもしれません」と天野先生。でも、「哲学対話」を通して「哲学する」ことは、哲学の学問的な難しい知識がない子どもでも、大人と一緒に楽しむことができると天野先生は言います。

先生によると、哲学とはひと言でいうと「ものごとの本質をとらえる」学問であり、哲学的な問いや考え方は、私たちの日々の生活の中で、とても身近な事柄なことが多いのだそう。そして、子どもたちから毎日のように発せられる「なぜ?」が、「哲学」と「哲学対話」の入り口になると言います。

「小さな子どもと哲学対話をするとき、私は絵本を使うことがよくあります。たとえば、ある絵本の中で主人公の女の子がぬいぐるみと会話をするような場面が描かれている場合があります。もちろんそれはファンタジーの世界なのですが、『ぬいぐるみがしゃべってる!どうして?』といった疑問を呟く子どももいるんですよ」

「人とぬいぐるみがなぜ会話できるのか?」……あなたならどう答えますか?ファンタジーの世界の出来事の「正解」なんて、大人でもわかりませんよね。子どもとの哲学対話は、こうした素朴で身近な疑問が出発点になります。

考える力を育む「“正解”のない問いに向き合う学問」。親子で哲学対話をしてみよう

「どうしてぬいぐるみとお話できるの?」という問いに、「そういうお話だから」と簡単な受け答えで終えてしまうのではなく、「そうだね、どうしてだと思う?」「でも本当にお話できないのかな?」など、大人も一緒に創造力を膨らませて楽しみながら考え、問いかけをしてみましょう。すると子どもたちからは、大人が想像しないような発想や考え方がどんどん出てくるといいます。

「大人だから正しい」とか「子どもはわかっていない」といった考えを取り払い、対等な立場で一緒に考え、感性に気づき、子どもからも学ぶこと。これが哲学対話の重要な姿勢であり、楽しさでもあります。

また、子どもと哲学対話をする上では、ネット検索などで簡単に辿り着ける“答え”を教えたり、考え方を一つに決めつけたりしないことも大切だと言います。

「子どもに『なぜ?』と尋ねられると、“正解”を見つけて教えてあげなくては、という気持ちになってしまうかもしれません。でも『哲学する』ということは、必ずしも一つの“正解”を一方的に教えこむことではなく、なぜ?どうして?を追求し、自ら考えるプロセスが大切なんです」

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◆「哲学対話」を通じて養われる「3つの思考力」
「唯一の“正解”を教え込むことを目的としない」哲学対話に取り組むことで、子どもにはどのような力が養われるのでしょうか。

「アーダコーダ」の副代表理事を務める河野哲也氏の著書『「こども哲学」で対話力と思考力を育てる』(河出ブックス)によると、哲学対話に取り組むことで「批判的思考」「創造的思考」「ケア的思考」という3つの思考力を育むことができるそう。

「『批判的思考』とは、教えられたことや知ったことをうのみにせず、『本当にそうなの?』と考える思考。そしてこのような疑問を持って考え続けることは、新たな発想を生み出す『創造的思考』に繋がります。また、相手と自分が異なる考えを持っている時、相手の価値観や思いを理解し、思いやる『ケア的思考』も育むことができます」

これからの社会を生き抜いていくためには、非認知能力(学力テストなどでは測れない、子どもの人生を豊かにする力)が欠かせないと言われています。学校でも、知識を教えることを中心とした従来型の教育だけでなく、探求型学習のように、一人ひとりが自ら課題を見つけ、考え、解決策を導き出す教育が重要視されるようになりました。

単に知識として唯一の“正解”を「知る」のではなく、「考え続けること」で「探求する力」や「諦めずに考え続ける強さ」を磨ける哲学対話への注目度は徐々に高まりをみせており、教育やビジネスの現場に導入される例も増えてきています。

◆「哲学対話」に挑戦してみよう!
では、実際に哲学対話にはどのように取り組んだらよいのでしょう。普段の家庭生活でも取り入れることはできるのでしょうか?

まず、哲学対話はいつごろからできるのかという点から。「もちろん個人差はありますが、4歳頃~小学校に上がる頃が、スタートの目安になります」と天野先生は言います。

「早い子は2歳近くなるとおしゃべりが上手になります。ただ、4歳未満ぐらいの子どもは、思考力がまだ未熟。2~3歳児は『これなあに?』などと、親を質問攻めにしますよね。でも、この『なあに?』は、『どうしてだろう』と自発的に考える思考力というより、大人が真剣に向き合ってくれることへの心地よさが優先し、子ども自身は『問い』と自覚していない場合がほとんどと思われます」

哲学対話は、早くから始めればよいというものではないと天野先生。ただ、コミュニケーションを取ること自体はとても大切なので、月齢・年齢に関係なく、たくさん子どもとお話をしてあげましょう。コミュニケーションがしっかりとれていれば、その後の哲学対話もスムーズになります。

次に気になるのは、「何を話せばよいのか」という点。天野先生に、おすすめのテーマについて伺いました。

「たとえば【サンタクロースっているの?】というテーマは、大いに盛り上がる問いのひとつ。いる・いないという話から、『そもそもサンタクロースって何?』というところまで問いが広がることもあるんですよ」

他にも飼育している動物が死んでしまった時などに【死んでしまうとどうなるの?】というテーマについて対話をしたり、【嘘ってついてはいけないの?】といったテーマも、さまざまな意見があり、考えを深めやすいテーマなのだそう。

大人がついタブー視してしまいがちな話題も、哲学対話という場を設けて話すことで、それぞれの考えを知り、相互理解が深まります。子どもは時に、大人がハッとするような意見を語ることも。柔らかい頭で考える子どもの思考から大人が学ぶこともたくさんあると天野先生は言います。

もちろん難しいテーマ、シリアスなテーマでなくてもOK。天野先生によると【カレーライスの味が家ごとに違うのはなぜ?】という問いが、子どもから出されたこともあったそう。大人も子ども身近な話題だったこともあり、大いに盛り上がったと先生は振り返ります。

「『同じルゥを使っているのに、何で味が違うんだろう』という問いがあったんです(笑)。家庭ごとの味付けとか雰囲気の違いだとか意見を交わしていくうちに、家庭ごとの食文化の存在といったところにまで話が及び、思った以上に深みのある哲学対話になりました」

そして、実際に哲学対話を行う際に大事にしたいのは「対話の場の雰囲気づくり」。園や学校などで、5~6人で行うときは、ゆったりしたリラックスできる雰囲気のなか、輪になって行うことがおすすめだと言います。

一方、家庭で行うときは、休日の食事時やお風呂タイム、散歩の途中などが適しているそう。散歩の途中なら「タンポポの綿毛って不思議だね」「風ってどうして吹くのかな」など、子どもから発せられる何気ない気づきや呟き、「なぜ?」をテーマにするのもおすすめなのだそう。

また落ち着いて対話をするためには「ルール」も欠かせません。「たとえば、以下のようなルールは、毎回大切に伝えるようにしています」と天野先生。

・人が話をしている時はきちんと聴く
・相手が考えている時は発言を急がせない
・人の意見と違っていても臆することなく、自分の考えを話す
・人の嫌がることや人格を否定するようなことを言わない(ただし、反対意見を述べることは大切)
・話したくないときには、無理に話さなくても大丈夫

これらのルールついてしっかり理解し守ってもらえるよう、場に合わせて伝え方や表現を工夫することが必要です。

ちなみに子どもと哲学対話を始める前に、まずは大人だけでやってみるのもおすすめなのだとか。確かに、『サンタクロースっているの?』というテーマなどは、大人同士で対話しても白熱しそうですね!

◆大切なのは「子どもの言葉に耳を傾け、会話を楽しむ」という姿勢
哲学対話は「ディベート」ではありません。どちらかの意見で相手を論破したり、勝敗を決めるものではないという点は特に大切です。

「あくまでコミュニケーションの一環として、ひとつのテーマについて考え、人の意見を聴き、自分だけでは辿り着くことができなかったことに気づいたり、深めたりして、そこからまた考えを広げていくものだと捉えましょう」

もうひとつ大事にしたいのは、哲学対話は「強制されるものではない」ということ。「子どもの非認知能力が育める」と聞くと「是が非でも毎日哲学対話をしなくては……」なんて思ってしまうこともあるかもしれません。そのようなプレッシャーを感じてまで哲学対話をしても、うまくいくことはないと天野先生は言います。

考える力を育む「“正解”のない問いに向き合う学問」。親子で哲学対話をしてみよう

「週に1回、あるいは月に1~2回程度できれば十分です。親も子もゆとりがある時間にやってみるだけでいいんですよ。夏休みやお正月など、長期休みのときや、家族旅行の際もおすすめです。特に山や海などの自然の中では、沢山の“ワンダー”と出会うことがあるので、哲学的な問いに出会うための絶好の場だと思います。親も子も対話を楽しむこと。これが哲学対話の醍醐味です」

哲学対話に取り組む人の中には、理想を高くもちすぎて「上手く話せるようにならなければ」と考えてしまうひとも少なくないと天野先生は言います。

「上手く話すということよりも、むしろ大人が頭を柔軟にして、日頃の思い込みを排して、子どもとの会話を楽しむことを大事にしてほしいですね。子どもの小さなつぶやきを見逃さず、ていねいに耳を傾けるようになれば、子どもとのコミュニケーションもどんどん深まりますよ」

「哲学」という言葉に引っ張られ、いたずらにハードルを高くする必要はありません。普段の会話の延長や、コミュニケーションの手段と考え、まずはひとつのテーマに沿って楽しく会話することからスタートしてみましょう。

あえて「唯一の正解」を導き出すことをゴールとしない「哲学対話」。自分で考え、人に伝え、人の意見を聴きながら、さらに考えを深めることは、不透明な時代を生きる上で大切な力を磨いてくれるはず。「哲学対話」を気軽に楽しむことによって、「哲学」という一見難解な学問のハードルがぐっと下がり、「楽しいコミュニケーションのカタチ」が広がっていきそうですね。

 


プロフィール
天野美和子さん
元私立幼稚園教諭。博士(子ども学)。NPO法人 こども哲学・おとな哲学 アーダコーダ理事。東海大学児童教育学部児童教育学科の教員で、保育者養成のための「人間関係の指導法」や、「幼稚園教育実習」「乳幼児心理」「シティズンシップ(現代社会と市民)」などの授業のほか、保育者向けキャリアアップ研修も行っている。カナダの親教育プログラムNobody’s Perfect Japan認定ファシリテーターとしても活動。共著に『園づくりのことば:保育をつなぐミドルリーダーの秘訣』(丸善出版)、『乳幼児の発達と保育』(朝倉書店)、『子どもの理解と保育・教育相談[第2版] (新時代の保育双書)』(みらい)、などがある。

取材協力
特定非営利活動法人 こども哲学・おとな哲学 アーダコーダ
哲学対話を社会の中で実践的に活用するためのスキルやプログラムを提供するNPO法人。アーダコーダの哲学対話は、幼稚園に通うこどもたちから年配の方まで対象年齢を問わないもの。毎日のくらしの中にある疑問や不思議のタネについて、あーだこーだと考えを交換し、お互いが時間をかけて考えを深めることができる時間を提供している。