「怒り」と上手に付き合うために。「アンガーマネジメント」で自分の「こころ」を見つめる
最終更新日:2023/11/17
大人も子どももふりまわされてしまいがちな「怒り」の感情。ついカッとなったり、怒りがなかなか収まらなかったり。瞬間的に怒りをぶつけてしまい、後悔して落ち込んでしまう…なんてことも少なくないのでは?また子どもがイライラして怒ったり泣き出したりして困ってしまうこともありますよね。「怒り」と上手に付き合っていくためには、いったいどうしたらよいのでしょうか。
そこで今回は、一般社団法人日本アンガーマネジメント協会の代表理事を務める安藤俊介さんに、「怒り」をはじめとした自分の気持ちと向き合い、上手に付き合っていくための方法について教えていただきました。
◆そもそも「怒り」がわくのはなぜ?
そもそも「怒り」とは何なのでしょうか。安藤さんによると、「怒り」とは自分の身を守る、大切なものを守るといった防衛感情なのだそう。誰にでも生まれたときから備わっている自然な感情であり、動物にも怒りがあると考えられていることから、原初的な感情とも言えるそうです。
自分の考え方や価値観を踏みにじられたり、大切な家族が危険にさらされたりしたとき。それらを守るために、人は怒りを覚えるのです。一般的に、怒ることは「良くないこと」というイメージが強くあります。でも、自分の権利や大切なものを守るためにも、怒りの感情を表すのはむしろ欠かせないことだと言えます。
「怒ることが悪いことだからと怒りを抑えるようになってしまえば、本当に必要な時に自分自身や大切なものを守ることができません。怒ることは決して悪いことではありませんし、どんな感情も表に出して良いものなのだと知ることが、まず大切だと思います」
大人の中にも、怒ると人間関係が悪くなってしまうのではないか、良くないことが起きるのではないか、といった思いにかられ、怒ることができない人は少なくないのだとか。「どうしたらうまく怒れますか?という悩みを持つ人は少なからずいる」と安藤さんは言います。
子どもの頃に怒るのは絶対的に悪いことだと思いこみすぎてしまうと、大人になって怒りを表に出すことができず、いざという時に自分を守れなくなってしまうことも。怒鳴ったりものを投げつけたりといった怒り方をしていいわけではありませんが、怒ることそのものは決して「悪いこと」ではないということをまず理解することからはじめましょう。
◆アンガーマネジメントって何?子どものうちから取り組むメリットとは
安藤さんによると「アンガーマネジメント」とは、怒りと上手に付き合うための心理トレーニングなのだそう。怒りそのものを抑えたり、子どもの怒りをコントロールしたりするといったものではなく、怒る必要があれば上手に怒れるように、そして怒る必要がないなら怒らなくて済むようトレーニングすることがアンガーマネジメントの基本的な考え方です。では、子どもの頃からアンガーマネジメントに取り組むメリットはどんなところにあるのでしょうか。
「スマホで例えると、子どもたちの習い事がアプリなら、アンガーマネジメントはOSを安定させるものと言えるでしょう。OSが安定して動くことによって、アプリも正常に動作することができるんです」
さまざまなスキルを身につける前のベースとなる部分を作り上げるために、小さなころからアンガーマネジメントに取り組むことは有効だと安藤さんは言います。
「アンガーマネジメントはトレーニングです。大人になってからでももちろん取り組めますが、幼い頃からトレーニングしたほうがうまくなる確率が高く、繰り返しなので身につきやすいため、早めに取り組むほうが良いとされています。未就学児からでも実践することは可能です」
◆親子で取り組む、自分の感情と向き合う方法
アンガーマネジメントに取り組むうえでまず大切なのは、まず自分の気持ちに向き合う、自分を見つめるということ。自分が今感じているのは何なのか、どんな感情なのかを、子どもの頃からうまく表現できるようにしておくと、大人になってからも自分の気持ちを上手にコントロールできるようになるといいます。
それでは実際、子どもが自分の気持ちと向き合うためにはどうすればよいのでしょうか。そのための方法のひとつは「今の気持ちはどんな感じ?」と子どもに聞いてみることだと安藤さんは言います。
「気持ちは24時間感じ続けているものです。気づいたときで構わないので『今の気持ちはどんな感じ?』と子どもに問いかけてみてください。怒っているときに限らず、日常の何気ないときにもたずね、その時々の気持ちを子ども自身に表現してもらうことが大切です」
その際、大人と子どもでは言語能力に違いがあるので、ちょっとした工夫が必要です。
「体の状態や色、形などで表現してもらうとよいでしょう。『今、手や足はどんな感じ?』『今の気持ちは色に例えると何色?』『どんな形をしている?』『触った感じはどうかな?』などと問いかけてみましょう」
このとき大切なのは「○○だよね?」と問いかけるような「クローズドクエスチョン」は使わず、子どもの自由な発想に任せること。子ども自身ができる方法で「表現する」ことによって、自分の気持ちがどのような状態なのかをとらえる力が身についていきます。
また、もう一つ大事なのは子どもの表現を否定しないこと。大人になっても気持ちを表す言語はさまざまで、人によってその強度や定義が違います。これと同様で、子どもがどんな表現をしてもすべてが正解です。親の思いや考えを挟むことなく、子どもの言うことを受け止めます。自分の状態を子ども自身が理解できるよう、どんな表現でも否定せずに聞くことです。自分を見つめる機会を作ってあげましょう。
もし子どもが不快な気持ちを抱えていて、どうしていいのかわからないという場合には、とにかく話し合ってみます。例えば、お腹がすいていてお菓子が食べたいと怒っているとして、お菓子をあげるのが正解とは限りません。それぞれ家庭のルールもありますし、社会のルールもあります。いつでも要求が通るわけではないこと、そうなったときに自分はどんな風に感じてどうなるのか理解することを教えていきます。本人の経験が大事になりますので、自分自身と向き合って見つけていけるような対話が必要です。
「親にとっての恐怖は、子どもの考え方が理解できなくなることではないでしょうか。一方、子どもにとっての恐怖は自己決定権を奪われることです」と安藤さん。
怒りを含めて感情を表に出すことを我慢するようになってしまうと、親は子どもの感情が分からなくなり、子どもは自分の気持ちを言えずに選択する機会を奪われてしまいます。恐怖心からも怒りが生まれるということを知り、お互いがお互いの気持ちを表現し合えるよう、普段からコミュニケーションをしっかりとっておくといいですね。
◆夫婦喧嘩は隠さないほうがよい!?
子どもの感情表現は、家庭以外の社会に触れるまでは親のコピーだといわれます。ですから、親が素直に感情を表現しないと、子どもも感情を上手に表現できなくなっていってしまう恐れがあるのだそう。
例えば、夫婦ゲンカを子どもに見せるのは悪影響だと考える人は少なくありませんよね。でも、なるべく子どもの目に触れないように…と思っていても、実はどこか様子がおかしいことに子どもは気づいているもの。その上で親が「ケンカを隠す」という行動をとってしまうと、「怒りは隠すのが正しい」という考え方を子どもに植え付けることになってしまいます。そうするとやがて、きょうだいゲンカをするときに隠れてするようになるかもしれませんし、怒りの表現は悪いものだと思い、感情を内に秘めるようになってしまうかもしれません。
だからこそ、親は怒ってケンカしている様子も含めて、人間関係というのはこういうものだよと見せるほうが良いのだそう。ケンカをした後にどうやって仲直りをするのかも含め、「ありのまま」を示してあげることも大切と安藤さんは言います。
最後に、親が子どもに対して怒りを感じたときにはどうしたらいいかという点についても伺いました。
「すぐに怒りをぶつけるのではなく一呼吸おいてみてください。怒りをなくすことはできませんが、瞬間的に出てくる言葉よりはだいぶ柔らかい表現になると思います。ただ、感情を表に出すのは決して悪いことではありませんから、怒っても構いません。強く怒りすぎてしまったと感じたら、しっかり謝ることも大切です」
自分が何をしたらいいのか分からないという子どもや、大人になってからも何をしたいか分からないという人は結構いるのだそう。それは「快」という気持ちが分からないからではないかと安藤さんは言います。
「『和をもって尊しとなす』というように、日本では人の気持ちを察しなさいと教わるけれど、自分の気持ちを理解しなさいとはなかなか言われない。でも本当に大切なのは自分の気持ちなんです」
自分が何をすれば快くなれるのか、何がしたいのか、優先順位はどれなのか…自分を良く知ることは、より良い人生を歩む手助けになるはず。自分をよく知るためには、まず自分自身と向き合うこと。「アンガーマネジメント」に取り組むことは、そのための第一歩と言えるかもしれません。
プロフィール
安藤俊介さん
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事。新潟産業大学客員教授。
アンガーマネジメントの理論、技術をアメリカから導入したアンガーマネジメントの日本の第一人者。
教育現場から企業まで幅広く講演、企業研修、セミナー、コーチングなどを行っている。
主な著書に『アンガーマネジメント入門』(朝日新聞出版)、『アンガーマネジメントを始めよう』(大和書房)等がある。