子どもの集中力を発揮させるには?集中できない理由と集中力をつけるためのヒント①
最終更新日:2021/09/08
集中が続かない子どもにイライラ
「なんでうちの子、こんなに集中力がないの?」、「うちの子、10分も机に座ってられない」と悩むママ、パパはいることでしょう。
そう頭をかかえる一方で、子どもは大好きなゲームや遊びには時間を忘れるくらい、集中力を発揮します。「どうしてその集中力を勉強にまわせないの?」と文句を言いたくなるでしょう。
ママ、パパはそんな子どもにイライラ。子どももママ、パパにイライラ、ビクビク。これでは、家族関係も悪くなってしまうでしょう。
子どもが勉強やお手伝いなど、「しなくちゃいけないこと」に対して集中できずに、注意散漫になってしまうのには、理由があります。
今回は、どうして子どもが集中できないのか、その理由をお伝えして行きたいと思います。理由がわかるだけでも、ママ、パパのイライラは減ることでしょう。
集中力は生まれつき半分は決まっている?
私たちが仕事や勉強への集中力は、生まれつき、約半分は決まっていると言われています。これは、4万人を対象にしたミシガン州立大学の研究で明らかになったことで、集中力があるかどうかは、かなりの割合で才能で決まっていると言うことができます。
しかし、がっかりなんてしないでください。遺伝で決まるのは半分であり、もう半分は子ども次第で、高い集中力を発揮することができるということです。
集中力の高い人たちの大半は、無意識のうちに集中力を高めるポイントを押さえており、つまり後天的に集中力を高めることはできるのです。
人の心は2つに分かれている?
「人の心は2つに分かれている」ということは、昔から言われてきたことですね。迷ったときに頭の中に天使と悪魔が出てきて、主人公が葛藤するなんてことは、マンガやアニメで多く使われています。
実際に脳内をスキャンしてみると、私たちの肉体の支配権をめぐって、人の頭の中にある「前頭前皮質」と「辺縁系」と呼ばれるエリアが主張しあっていることがわかりました。
「前頭前皮質」は、複雑な計算や問題解決が得意なエリアで、同時に理性を司るエリア。人類の進化においては後の方にできたものです。その一方、「辺縁系」は食事など本能的な欲望をコントロールするエリアで、進化の初期にできたもの。
この2つのエリアは、よく「ゾウとゾウ使い」と例えられます。「辺縁系」が「ゾウ」で、「前頭前皮質」が「ゾウ使い」です。
「ゲームしたいけど勉強もしなくちゃ」と子どもが思っているときに、ゾウは「ゲーム!」と一直線で向かいたがりますが、ゾウ使いは勉強をしようとゾウをなだめます。本能のままに動き回るゾウを、ゾウ使いがどうにかしてコントロールしようとするイメージです。
ゾウとゾウ使いの特性
ここからは、「ゾウ」=「辺縁系」と「ゾウ使い」=「前頭前皮質」の特性についてお伝えして行きます。
「ゾウ」=「辺縁系」の特性①
「ゾウ」=「辺縁系」の1つ目の特性は「難しいことを避ける」ということです。
ゾウが難しさを避けるのは、エネルギーの消費を防ぐためです。これは私たちの祖先が、原始の時代にどう生活していたかイメージすると説明がつきます。ときには、食料が見つからないときがあったでしょう。ときには、猛獣に追いかけられたときもあったでしょう。そんなときに、エネルギーが残されていなかったら、私たちの祖先たちは生き残れなかったでしょう。
子どもたちは頭の酷使する作業はしないように、わかりにくいものは本能的に遠ざけるようプログラムされているのです。このプログラムが、子どもの集中力に影響しているのは当然です。
「ゾウ」=「辺縁系」の特性②
「ゾウ」=「辺縁系」の2つ目の特性は「刺激を受けやすい」ということです。
私たちは無意識のうちに無数の小さな刺激を受けています。その数は、1秒の間に1100万の情報を受け取っています。車のエンジンの音や、ママが皿洗いをしている音、服のタグがチクチクすること、さっき読んだマンガの記憶。
これらは目の前のことに集中しているときは問題にはなりませんが、ふと注意が逸れたとき、無意識下からゾウの注意を引きます。勉強に没頭していたかと思ったら、目の前の絵本が気になったり、頭のかゆみが気になったり。ここから集中を戻すのは大変です。
このような問題が起きやすいのは、ゾウが同時に複数のことを処理するのが得意だからです。ゾウのデータ処理能力は人が暮らすのに欠かせません。
例えば、街中で友だちと会ったとすると、ゾウは目の前の人物が何者なのかを判断し、以前にどんな会話をしたか、どんなキャラクターだったかを過去のデータからサーチします。もしすべての情報を意識的に処理していたら、日が暮れてしまいます。
驚異的な能力であるのですが、集中力にとってはデメリットなのです。ゾウのパワーは原子的な環境に最適化されており、食べ物、暴力といった肉体的な刺激にとても弱いのです。原子的な環境では、大量の食べ物を手に入れ、怪我や病気のリスクを減らしたものこそ、生き残ることができました。
600万年かけて組み上げられた生存のためのプログラムによって、瞬時に「どこに注意を向けるか」のスイッチを切り替えてしまいます。
「ゾウ」=「辺縁系」の特性③
「ゾウ」=「辺縁系」の3つ目の特性は「強いパワー」です。
前述した通り、ゾウは1秒の間に1100万の情報を処理し、瞬時に子どもの肉体を乗っ取ってしまいます。美味しそうな食べものを見て、食欲を起動させるまでの間の時間は、ほんの100分の1秒です。ここまで早いとゾウ使いがゾウの活動を抑えることはできません。
それもそのはずで、人の祖先が猿から分岐したのが600万年前。ホモ・サピエンスが抽象的な思考を取得したのは20万年前。つまり人類史の96.7%の時間、人には理性がなく、本能的に生きていたのです。その間、ゾウは力を蓄えてきたのですから、パワーが強いのは当然です。
「ゾウ使い」=「前頭前皮質」の特性①
「ゾウ使い」=「前頭前皮質」の1つ目の特性は「論理的」です。
ゾウ使いは論理性を武器にゾウの暴走を抑えます。「ここでゲームをしたら、宿題が終わらないぞ」、「今おやつを食べたら夕飯が食べられなくて、怒られるぞ」と正論を組み立て、ゾウの注意を「やるべきこと」に引き戻そうとします。
しかし、述べたようにゾウのスピードとパワーの前に、圧倒的にゾウ使いは不利です。ゾウは同時に大量の情報を処理できるのに対し、ゾウ使いは情報をひとつずつしか処理ができないからです。
「本棚にマンガがある」という情報を受け取った場合、ゾウ使いは「今読んだらどうなる?」と問いかけ、「宿題ができなくなる」と答えを出します。続いて「宿題ができなくなったらどうする?」とまた問いかけ、「先生に怒られる」という結論にいたります。こうした、1つの情報を順々に考えることしかできないのです。
「ゾウ使い」=「前頭前皮質」の特性②
「ゾウ使い」=「前頭前皮質」の2つ目の特性は「消費エネルギーが大きい」です。
ゾウは目の前の欲望に突進すればいいのに対し、ゾウ使いは意識的に複数の情報についてあれこれと考えなくてはなりません。それだけエネルギーがかかるのは当たり前です。
このときのゾウ使いの働きは、以前書いたワーキングメモリーが大きく関係しています。ワーキングメモリーは、ごく短期的な記憶を頭の中に保つ機能で、「脳の司令官の机の広さ」だとイメージするとわかりやすいでしょう。
入ってきた情報をゾウ使いが処理するには、ワーキングメモリーが必要です。「マンガがある」という情報から、「読んだら宿題ができない→やらないと怒られる→怒られるのは嫌だ→我慢しよう」といった思考を生み出すには、短い間に複数の情報を一時的に保存し、中間処理の結果を元に、結論を出す必要だからです。
しかし、残念なことにワーキングメモリーの容量には制約があります。それに対しゾウの動作にはワーキングメモリーが必要ありません。「マンガ→読む」、「お菓子→食べる」と複雑な中間処理がなく、ゾウ使いを不利にさせます。
「ゾウ使い」=「前頭前皮質」の特性③
「ゾウ使い」=「前頭前皮質」の3つ目の特性は「弱いパワー」です。
「弱いパワー」については、もはや説明がいらないでしょう。とっさに処理するスピードがなく、ゾウに立ち向かうには多大なエネルギーを使い、得意の「論理性」も1つずつしか処理できません。どちらが勝つか結果ははっきりしています。
しかも、前頭前皮質は、辺縁系よりも遅れて発達します。つまり、子どもの場合、小さなゾウ使いが、大きなゾウに立ち向かわなければならないわけです。
まとめ
いかがだったでしょうか。子どもの集中力がどうして続かないのか説明してきました。
残念ながら、ゾウ使いはゾウに勝つことはできません。これは人類が生き延びてくるために、仕方がないことなのです。大人を含め、集中することが得意な人なんていないのです。
しかし、絶望することはありません。人の中には驚くほど集中力を発揮できている人がいることも事実です。ゾウをうまく導くことができれば、私たち、子供たちは莫大なパワーを得られます。
次回は、どうして子どもがゲームには集中できるのか、またゾウをコントロールして集中力を得るためのヒントをお伝えしていきます。