多様性を理解し、思いやりの心を育てる「動物とのふれあい」
最終更新日:2024/05/15
子どもの情操教育に多大な効果があると言われている動物とのふれあい。実際に犬や猫などのペットを飼育しているご家庭では、その効果を実感するところもあるでしょう。また現在はペットがいない家庭や、さまざまな事情でペットを飼育することが難しいというご家庭でも、子どもに動物との関わりやふれあいの機会を持たせたいと思っている方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、「動物のプロ」である株式会社アニマルライフ・ソリューションズの北川健史さんに、動物とのふれあいで得られる効果や学び、そして実際に動物にふれあえる場所や動物とふれあうう上での注意点などについてお話を伺いました。
◆子どもが動物とふれあうと、どんな効果がある?
動物と身近に関わり、ふれあうことにはどんな効果があるのでしょうか。たとえば、ある研究では、犬を相手に子どもが音読を行うことで、発声が良くなり読み方もうまくなったという結果があるのだそう。「動物が相手なら失敗しても笑われることはなく、子どもも集中して音読に取り組むことができますから、良い効果があるのかもしれませんね」と北川さんは言います。
人間同士のように、言葉ではコミュニケーションをとることができない動物たち。だからこそ子どもたちが動物とふれあうことは、「人」以外の種の多様性を知る良い機会になると北川さんは言います。
「生き物には、機械的ではない、自然物ならではの変容があります。例えば体にふれたときも、常に同じ反応が返ってくるわけではありません。種や個体によって、あるいは同じ個体でもその時々で異なった反応が返ってきます。こうした反応やその違いを体感することによって、相手の反応を見て自分のやり方を変えてみるなど、他者のことを考えるきっかけにもなると思います」
必ずしもひとつの答えや正解があるわけではない動物との関わり。そこでは、相手が今どのように感じているのかを考え、相手を思いやる気持ちが育ちますし、さらにどんな反応をするのか楽しんでみるといった柔軟な考え方も身につくのではないでしょうか。守ってあげたい、優しくしてあげよう、こうしたらどうか…など、相手の立場に立って考えることは、情操面で非常に大きな教育効果があるといえます。
「最近では、動物にふれる人のことだけでなく、さわられる動物の心と体の健康のことも考えている施設が増えてきています。人も動物もお互いに幸せになれる体験が目指すところです。また、動物に直接ふれなくても、観察することや感情移入することでも十分に情操教育の効果があるという報告もされています」
動物にふれることは、子どもにとってさまざまなことを学べるとても貴重な経験です。でも、「動物とのふれあい」とは、必ずしも「実際に動物にさわる」ということだけを指すのではありません。動物の気持ちを考えながら、その様子や行動をじっくり観察することで動物と気持ちを通わせることも、立派な動物とのふれあい。動物にとっての幸せや、動物の心身の健康について考える「動物福祉」の目線も、動物とふれあう上では大切です。
「さまざまな形で動物とふれあうことを通じて、生き物への興味や親近感が生まれ、そこから自然や命、地球環境などについて考える第一歩になればいいなと思っています」
◆動物とふれあいたい! どんな場所がおすすめ?
思いやりの気持ちや柔軟性、また動物や自然環境、そして動物福祉などへの幅広い理解を深められる動物とのふれあい。短期間のふれあい体験よりも、長期間の飼育やお世話をしたほうが、その教育的な効果は大きなものがあると北川さんは言います。
犬や猫などのペットを飼育していれば、生き物を身近に感じながら生活することができますが、住居やアレルギーなどさまざまな理由でペットを飼うことが難しい、できない家庭もあるでしょう。そういった場合、どのような形で動物とふれあえばよいでしょうか。
・動物園のふれあいコーナー
動物園には動物とのふれあいを楽しめるところが数多くあります。動物園の動物たちを楽しみつつ、ふれあいコーナーにも立ち寄ってみるのはいかがでしょうか。動物園によってふれあえる動物が違いますから、事前に確認しておくといいですね。
・商業施設内にあるふれあいの場や、観光地の牧場など
家族連れでにぎわう商業施設や観光地には、さまざまな形で動物と関われる場所があります。近くに出かけるときに寄ったり、お出かけのスケジュールに組み込んだりと、予定に合わせて利用してみてはいかがでしょうか?
・動物カフェ
猫カフェやドッグカフェをはじめとした動物カフェも、動物とふれあえる場のひとつ。近年では爬虫類や鳥類などふれあえる動物もさまざまです。ただ、動き回る子どもや甲高い声が苦手な動物も多く、小さな子どもを連れていくには適さない場合も。小学校高学年くらいで、動物に慣れてから利用するといいでしょう。
・動物園のガイドツアーや飼育体験
より長時間動物に関われるものに、動物園の飼育員やスタッフと一緒にめぐるツアーなどがあります。解説を聞きながら動物とふれあったりエサをあげたり、中には1日お世話をする体験ができることも。より長時間動物と関わり、「学び」につながるふれあいをするなら、こういった体験イベントを利用するのもおすすめです。
このように動物に出会える施設や動物とふれあう方法はさまざま。子どもの興味や年齢、あるいは家族の行動範囲に合わせて選ぶとよいでしょう。ただその際、それぞれ場所の約束事やルールをしっかり把握しておくことを大切にしてほしいと北川さんは言います。
注意事項を見落としていたために、動物に噛まれてケガをする、あるいは動物をケガさせてしまうといったこともあるかもしれません。相手が動物である以上、完全に安全なふれあいというものはないということも、十分理解しておくことが大切です。
◆動物と関わるときに、親が気をつけたいこと
子どもが実際に動物とふれあっているとき、親はどのようなことに気をつければよいでしょうか。北川さんによると、動物とふれあう際、頭の中に思い描いていた動物と実物の動物とのギャップに驚いて、怖がる子どもも少なくないのだそう。
思っていたより大きくて怖い、口の中が気持ち悪い、臭いなど、いざとなったら動物とのふれあいを嫌がってしまう…なんてことも。そんな時は本人の気持ちを尊重して無理強いはせずに、次の機会を待つ方が良いでしょう。
それ以外にも、子どもが動物と関わりたいと言ったときに、親が気をつけたいことにはどんなことがあるのでしょうか。
・マイナスの発言をしない
子どもと一緒に動物を見た際に、「怖い」「汚い」「臭い」などマイナスの先入観を与えてしまうような言葉を口にしないことが大切です。せっかく興味を持っていた子どもが大人の発言を聞いて、「そういうものなのかな」と思ってしまいます。大人の言葉は思った以上に子どもに大きな影響を与えるもの。子どもの興味関心を削ぐようなことは言わないようにしましょう。
・いい加減な答えを与えない
動物を目の前にしたり実際にふれてみると、子どもはさまざまな疑問をもちます。その疑問を親にぶつけることも多々あると思いますが、一緒にいる大人も専門家ではありませんから、答えられないのは当たり前。そんなときは施設のスタッフや飼育員など分かる人に質問してみるのがよいでしょう。子ども自ら聞きに行けるように促してあげると、疑問の解決の仕方やコミュニケーションの取り方を学ぶ絶好の機会にもなります。
・大人と同じようにさわらせたり抱き上げたりさせない
小さい子どもは力加減がうまくできません。そのため、いきなり動物を強くつかんだり叩いたりしてしまうこともあります。このような行動は動物側にも負担がかかってしまうので、小さい動物は特に注意が必要です。はじめは大きな動物に少しふれてみるとか、近くで眺めてみるなどしながら、段階を踏んで距離を縮めていくようにしましょう。
・体に異常が現れたらすぐにやめる
動物の毛や皮膚などはアレルギーの原因になりやすいと言われています。もし体に何らかの異常が現れた場合は、すぐにその場を離れましょう。また、アレルギーの原因は動物だけに限りません。例えば、イネ科の牧草を使用している施設などでは、牧草にアレルギー反応を示す場合もあるのだとか。特に初めて子どもを連れていく場合は、より注意深く子どもの様子を観察して、異変を見逃さないようにしましょう。もちろん、アレルギー反応などがなくても動物とふれあったあとはしっかり手洗いをすることや、動物を触った手で顔などをさわらないことも、しっかり注意して徹底するようにしましょう。
「動物とのふれあいをより学びあるものにするなら、観察や感情移入を促すことが大切です」と北川さん。実際に動物と接することで、いろいろな気づきがあると思います。
指は何本あるのかな?口の中はどうなっているのかな?…科学的な観点から得られる「気づき」やそこからの「学び」もありますので、大人も子どもと一緒に動物との関わりを楽しめるといいですね。
動物と過ごすことは、自分以外の生き物への興味関心や他者への思いやりにつながります。子どもの気持ちを第一に考えて、無理せず徐々に慣らしながら、さまざまな経験をさせてあげたいですね。子どもたちが動物を入り口にして、さまざまな世界に興味を持ってくれますように!
プロフィール
北川 健史さん
麻布大学で動物人間関係学を学び、馬が子どもの発達に与える影響について研究。大学院(修士)卒業後、株式会社アニマルライフ・ソリューションズに勤務し、動物園の馬と小動物のふれあい広場の運営に携わりながら、学校等での講師や動物のトレーナーとしても活躍中。