“大丈夫”より“どうする?”が未来をつくる。子どもの楽観性を育むヒントとは?
最終更新日:2025/11/17
「失敗が怖くて、一歩が踏み出せない」・・・そんな子どもは少なくありません。ここで育てたい「楽観性」は、根拠のない「大丈夫!」ではなく、現実を見て原因をとらえ、やり方や時間の区切りを工夫して、次の一歩に変える「思考習慣」。困りごとに出会ったときこそ「どうする?」と考え直せる力が、挑戦を支える突破口になります。
では、この楽観性は生まれつきのものなのでしょうか。それとも身につけられるものなのでしょうか。楽観性とはいったいどんな力で、どうすれば育めるのでしょう。そして、子どもの楽観性を伸ばすためにできる親の関わり方とは?
一般社団法人日本レジリエンスエデュケーション協会代表理事の山本千香子さんにお話を伺いました。
◆「楽観性」って何?
「楽観性」とはどんな心の持ち方でしょうか。前向きな人を「ポジティブ」と表現することがありますが、実は「ポジティブ思考」と「楽観性」には違いがあります。
山本先生によれば、ポジティブ思考は「物事のいい面を見て気持ちを前向きにすること」。一方の楽観性は、現実をよく見て、自分ができる「次の一手を決める力」なのだそう。
「たとえば宿題でつまづいたとき、『大丈夫、きっとできる!』と考えるのがポジティブ思考。確かに少し気持ちは上がりますが、それだけでは現実的な問題の解決にはつながりません。一方、『文章題がむずかしいんだな(事実)。今日は“1問だけ”図にして考えてみよう(作戦)。5分やってみたらおしまいにしよう(時間を区切る)』と、どこでつまずいたかを考え、今自分ができることを探し、『何をどうするか』まで考えを進めるのが楽観性なんです」
「気持ちを前に向ける」という意味ではどちらも大切。ですが、単にポジティブな方向に考える“だけ”に留まると、時に現実離れしてしまうことも。現実を見つめ、原因をとらえ、行動に結びつけていく力・・・それが楽観性だといえそうです。
◆「楽観性」にも種類がある?「身につけられる」楽観性とは
近年、子どもが社会を生き抜くために必要な力として「レジリエンス」が注目されています。レジリエンスとは、困難に直面しても柔軟に対応し、乗り越えて回復する力のこと。その土台には次の5つの力があるといわれており、楽観性もその中の一つです。
<レジリエンスを支える5つの力>
【自尊心】 自分を大切にする心
【感情調節】 自分の気持ちに気づき対応する力
【自己効力感】 「やればできる」と思える力
【楽観性】 出来事をバランスよく見る力
【人間関係】 誰かを助け誰かに助けられるつながりの力
「楽観性」には、実は「気質的楽観性」と「現実的楽観性」の2つのタイプがあると山本先生。
新しい遊具を見て「やってみる!」と言えたり、失敗しても気持ちの切り替えが早い・・・これは、生まれつきの性格の影響が強い“気質的楽観性”です。対して“現実的楽観性”は、出来事を冷静にとらえ、自分がコントロールできる部分に集中する力を指すものであり、この現実的楽観性こそが、レジリエンスを高めるカギになります。
しかもこの現実的楽観性は生まれつきのものではなく、「日々の声かけと小さな練習で伸ばせるもの」なのだといいます。
「失敗をしたときに、原因を限定し(「全部ダメ」ではなく「今日は計算でつまずいた」)、時間を短く区切り(「ずっと無理」ではなく「今日は難しかった」)、できる行動に翻訳して(「無理」ではなく「明日は5分だけ練習する」)捉えなおす・・・こうした「捉えなおし」の習慣が現実的楽観性であり、練習することで身につけていくことができるんですよ」
◆「楽観性」と「自尊心」の関係
楽観性は自尊心とも深く結びついています。2つは互いに支え合い、相互作用によって好循環を生み出すと山本先生は言います。
自尊心とは「自分は大切だ」と思える心の土台。楽観性とは「どうしよう・・・」を「こうしよう!」に変える力です。
たとえば何か失敗をしてしまったとき。楽観性があれば「自分がダメ」なのではなく「方法が良くなかった」と考えられるので、自尊心は傷つきません。一方、自尊心があれば「失敗したとしても自分の価値は損なわれない」と考えられるので、再び挑戦でき、その中で小さな成功体験が積み重なっていきます。するとしだいに「こうすればうまくいく!」という現実的な楽観性が育まれていくのです。
楽観性と自尊心が相互に支え、高めあう好循環を生むことができれば、失敗に対する抵抗感や恐怖心が和らぎ、「またチャレンジしよう!」という意欲が向上していきます。
◆年齢別「楽観性を育む声かけや習慣」
では具体的に、現実的楽観性を育むには、日々どのように子どもに接すればよいのでしょうか。年齢に合わせた声かけや習慣を工夫することで、子どもは自然に「なんとかなる!」と思える心を育んでいきます。ここからは、その具体的な方法を年齢別に見ていきましょう。
●未就学児(3~6歳) ⇒「感じて少しやる」を増やす
感情の言語化と小さな成功体験を重ねていくことがこの年代のポイントです。
<感情から行動につなげる声かけ>
まず「くやしいね」「悲しかったね」など、子どもの気持ちに寄り添いながら、気持ちを言葉にします。その上で「あと1回だけやってみる?」と声をかけ、今できる行動へつなげます。
<やり直し遊びをする>
失敗したら「もう一回チャレンジ!」を合言葉に。たとえば積み木がくずれても、「笑って積み直す」という経験を繰り返しましょう。
<寝る前にできたことを3つ探す>
「あいさつができた」「靴を揃えられた」など、その日できたことを3つ具体的に言葉にしてほめます。「認められた!」と感じることで自信が育ちます
●小学校低学年(1~3年) ⇒「作戦を立てて短く試す」を習慣化
どうしたらうまくいくのか「作戦」を考え、「時間の見通し」を意識する習慣をつけます。
<1分作戦会議>
「白か黒か」のように極端に考える子どもは、できないことがあると「もうダメ」とあきらめてしまいがち。そんなときは「1分でできること」を一緒に考え、より具体的で短い行動を促すのがおすすめです。(例:最初の1分は問題文だけを音読してみよう。それが終わったら問題を解いてみようか? など)
<「できた!」を見える形に>
「できた」ときはカレンダーにシールを貼るなどして可視化。前に進んでいるという実感が次の行動を後押しします。
<具体的に言い換えてみる>
「全然できない!わからない!」と言っていたら、「文章題がわからないんだね」「計算のやり方がわからないんだね」など、具体的に言語化。漠然とした状況や気持ちを、より具体的な言葉にして示します。
●小学校高学年 ⇒ 完璧より「提出できる形」に、比較より「過去の自分比」を
成長した分、比較や完璧主義、評価の目が強まります。物事を抽象的に考えられるようになる分、「最悪の想像」が広がることも。そこで大事なのが「見通し」と「分解」を組み合わせて考えることです。
<逆算&分解>
提出日から逆算して、どのくらいで終わるのか見通しを立て、作業を10分~20分ほどでできるものに区切っていきます。
<複数の見通しを立てる>
「最悪のパターンは?」「最高のパターンは?」「一番ありそうなのは?」とあらかじめいくつかのパターンに分けて見通しを立て、作戦を立てることで、思考の幅が広がります。
<比較を“過去の自分”に>
自分と他人を比較しがちな時期。もし他人と比べて落ち込んでいるようなら、「過去の自分比」で1つだけでも進歩した部分を探すように声をかけます。
◆子どもの楽観性を育むために、親は何をしたらいい?
現実的楽観性を育てるには、日常の失敗体験をどう受け止めるかが大切です。
たとえば、運動会の練習でバトンを落としてしまったとします。「落としてショックだったね」「第2コーナーで落としたんだね」「スタートダッシュは前より速くなったね」「明日は“手の出し方だけ”3回だけ練習しよう」・・・こんな声かけが、気持ちを切り替える力につながります。
山本先生は「大切なのは励ましよりも声かけの順番です。親の動きはS.T.E.Pでシンプルに」と話します。
S(Soften):気持ちを和らげる。「悔しかったね」「怖かったね」と共感の言葉を。
T(Think):事実を一緒に確認。「どこで引っかかった?スタート?最後のカーブ?」など。
E(Extract):学びを1つだけ取り出す。「合図を見てから走れたね。次は『バトンを胸の前に』を意識しよう」。
P(Plan):小さな行動を決める。「明日は3回だけ受け渡し練習しよう。終わったら好きなおやつを食べようね」。
一方で、避けたい声かけもあります。
・「そんなことで泣かない」=感情の否定
・「がんばればできる!」の繰り返し=方法が不明確
・「前はできたじゃん」=いまのつまずきを置き去りにする
さらに大切なのは、親自身が楽観性を体現することです。
「失敗したときには、明るく取り繕うよりも立て直すプロセスを見せることが大切。子どもは大人の対応をよく見ているんですよ」
たとえば料理を焦がしてしまったら。「焦がしちゃった、ショック(感情)!でも中は食べられるね(事実)。焼き直してソースを足そう(作戦)。次はタイマーを5分短くしよう(学び)」と、さながら実況中継のように失敗から立て直す姿を示します。
また、うまくいかなかったときには深呼吸したり、水を飲んだり、ストレッチしたりと「セルフケア」を実際にやって見せることも、「気持ちは整えられるんだ!」と伝える貴重な実例になります。
「100点より、100%を。結果(100点)より、自分でコントロールできる行動(100%)に集中してくださいね」と山本先生。
比較や評価はひとまず横に置き、時間ややり方、回数などを自分で決めてやり切れれば、たとえ思うような結果が得られなくても「やるだけのことはやった」と納得して次に進めます。この視点を子どものころから持っておくと、失敗しても切り替えて前に進むことが得意になっていくのだとか。
結果は選べなくても、次の一手は選べます。だからこそ、日々の小さな「できた」を親子で見つけて積み重ね、楽観性を育んでいきたいですね!
プロフィール
山本 千香子さん
一般社団法人日本レジリエンスエデュケーション協会 代表理事。公認心理師、キャリアコンサルティング技能士2級、レジリエンストレーナー。
企業で 11年間、人材育成や教育プログラムの開発に携わり、1,000人以上の成長をサポート する中で、「困難に直面したときに乗り越える力=レジリエンス」の重要性を実感。より早い段階でこの力を育むことが、子どもの未来を切り拓く鍵になると考え、教育現場へと活動の場を移す。
現在は、小中学校の 教職員や保護者向けに、子どもの成長を支える大人自身の「心の力」を育む研修や講演を年間200回以上実施。
「学級経営に役立つレジリエンス指導」「子どもの自己肯定感を高める家庭での関わり方」 など、学校や家庭で日常的にレジリエンスを育める環境づくりをサポートしている。
これまでに 全国の教員・保護者2万人以上にレジリエンスの実践法を伝え、教育現場の変化を支援 している。






