
自然とふれあって生きる力を高める!親子で楽しむ農業体験のすすめ
最終更新日:2025/05/23
子どもたちが自然や農作物にふれる機会が減少しつつある今、野菜の植え付けや収穫、田植えや稲刈りなどを体験できる「農業体験」への注目が高まりつつあります。
農作業を体験することは子どもたちにどんな体験や感動をもたらし、そして子どもたちは何を学ぶことができるのでしょうか?
「農作業は五感を通じて何かを感じ学ぶことができるコーディネーション運動」という考えのもと、収穫イベントや畑遊びなどの農作業体験を開催している「一般社団法人コーチングバリュー協会」代表理事の東根明人さんと、同協会専任コーチの大羽瑠美子さんにお話をうかがいました。
◆「考える」ことで農作業の体験がさらに意義深く
机上だけの学びではなく、実際に体験して学ぶ「体験型学習」が、未来を担う子どもたちにとって欠かせないという考えが広がってきた昨今。近隣や校外の農園などに出かけて農作物の収穫を体験したり、農家に滞在(宿泊)して農家の仕事を体験する「農泊」など、農業体験の人気はしだいに高まりつつあります。
私たちが生きるために欠かせない「食」。それを支えているもののひとつが「農業」です。農業体験は、農業や食について理解を深めるだけでなく、土や水、作物に触れることで自然を感じて感性を磨き、協調性や感謝の気持ちを育むなど、その教育効果も注目されています。
農作物の収穫体験というと、ぶどうやいちごなどの果物を収穫する「果物狩り」を思い浮かべる方も多いかもしれません。こうしたレジャーとしての収穫体験は、手軽に楽しく農作物に触れたり味わったりすることができますが、コーチングバリュー協会で行っている農作業体験(ファーミング)では、ただ収穫をするだけでなく、子どもたち自身が考えて行動する「ひと手間」を大切にしていると東根先生はいいます。
「もちろん、畑や果樹園など、レジャー用に整えられた場所に出向き、短時間収穫してその場で食べたり持ち帰るといったことも、農業や農作物への興味の入り口としては貴重な体験の場です。しかしそれだけですと、収穫を体験する『インプット』の作業で完結してしまいます。私たちの開催する農作業体験では、その先の好きなことを見つけ、自分たちで作業を組み立てたり遊びに変えたり、楽しみ方を探すと言う意味での『アウトプット』も体験させてあげることを大切にしています」
たとえばさつまいも掘りをするときは、まずは茎や葉をそのまま残した畑を子どもたちに見せることから始まるのだとか。まずは、「サツマイモはどこでしょう?」という問い。そのうえで茎を切り、「このあたりを掘ってみよう」と促します。すると子どもたちは、スコップを使ったり、手で土を掘るなどしてサツマイモを掘りはじめますが、上手に掘れなかったり、サツマイモをちょっと傷つけてしまったりすることももちろんあります。
「こうした『失敗』をすることで、『じゃあ、どうすれば上手にできるんだろう?』、と子どもたち一人ひとりが考え、工夫して行動できるようになるんです。『自分で考え、それを行動に移す』というアウトプット的な学びに変換することが私たちの行っている農作業体験の魅力です」
収穫しやすく準備された場所で、やりかたを教わりながら収穫するのではなく、「自分で考えて行動する(試行錯誤・仮説検証)」という「ひと手間」を加えることが、子どもたちの成長につながるんですね。
◆農作業を通じて得られるさまざまな「気づき」と「学び」
一方、農作業体験を開催するとさまざまな「気づき」があると話すのは専任コーチの大羽さん。たとえば、大人と子どもでは、農業体験の捉え方や楽しみ方が異なっているのだとか。
「大人はどちらかというとトマトやきゅうりなど、地上に生育していてすぐに見えるものに興味を持ちがちなんですが、子どもたちはサツマイモ、ジャガイモ、ニンジンといった土の中にあって収穫するまでは見えない野菜たちのほうにより興味を持つんですよ」
葉や茎に覆われて収穫物が見えないものを探して掘って見つける・・・それは子どもたちにとって、農作物の収穫は「宝探し」のような感覚なのかもしれませんね。
また、子どもたちは農作業を行う中で「協力すること」の大切さを学んでいくそう。初めて畑で出会った子どもたち同士でも、自然と協力して作業をするようになり、そのうち「以前からお友だちだったの?」と感じてしまうぐらい仲良くなることもあるといいます。
「大人が教えるわけではないのに、自然と近くにいる子と協力して役割分担をしながら収穫する姿は、見ていてとてもほほえましいものがあります。皆で協力しながら頭と身体を使って収穫物を得るという作業は、まさに課題解決であり、チームスポーツとも共通する点が多々あります」
もちろん、農作物を通じて、野菜たちや生きものへの理解が深まる点も魅力的。たとえばコーチングバリュー協会では、収穫した野菜たちを、大切に、長く、美味しくいただくための「野菜の保存の仕方」もレクチャーしているのだとか。
「土の中から収穫した野菜たちには、泥や土がついています。でも、店頭に並ぶ野菜はきれいに洗浄されているものがほとんどなので、土や泥は『汚いもの』と思っている方も多いんです。持ち帰る際も、『洗ってから持って帰っていいですか』とおっしゃる方がたくさんいるのですが、そんなとき私たちは、土がついたままのほうがいいんですよ、とご説明します。みなさんその理由を知ると喜んで土付き野菜を持ち帰ってくださいます。」
また農作物に触れ、理解を深め、実際に味わってみることによって、「野菜嫌い」の克服につながることもあるのだそう。
「自分たちで収穫したものには愛着があるから、おいしく食べられるんです。それに、私たちの協会の農園では無農薬で野菜を作っていますから、野菜本来の味が楽しめます。『スーパーで買ったニンジンやピーマンは食べないのに、収穫した野菜はおいしい!と言ってパクパク食べるんです』と親御さんたちも驚いています」
「ニガテ克服」は食べ物だけに限りません。たとえば虫が嫌いだった子どもが平気で虫を触れるようになったり、土いじりが大好きになったりすることも多いそう。農作業を通じてさまざまなことを知り、自然や農作物への見聞を広げることで、「食」の大切さや野菜たち、生産者の方々への感謝の気持ちも生まれます。
◆サポートは最小限に。見守ることで好奇心を育もう
農作業の体験を始めるのに、「年齢はあまり意識しなくてもかまいません」と東根先生。2歳くらいの子どもならもう十分楽しめますし、コーチングバリュー協会で行っている体験には、「畑で初めて立った」というぐらいの小さな子どもが参加することもあるのだとか。
子ども自身があまり乗り気でない場合は、たとえば虫や花、土遊びなど子どもが好きなことをフックに誘ってみるといいかもしれません。逆に、たとえば親自身が虫などが苦手な場合、子どもに追う作業を体験されることに消極的になることもあるかもしれませんが、どうしても苦手なことは現地のスタッフさんにお任せしよう、という気軽な気持ちで参加してみてはいかがでしょうか。
「実際に広々とした畑で、『何か探してみよう!』と動き出したら、スイッチオンです。『動くから楽しい!』んです」
それでも「本格的な体験はちょっと敷居が高い・・・」と思う場合は、まずはレジャーとして楽しめる野菜や果物の収穫体験からスタートするのもよいでしょう。その際、子どもたちに手取り足取り収穫の手順を教えたり、説明したりするのではなく、子どもたちが何にどう興味を持って行動するのかを、できるだけ静かに見守ってあげるということが大事だと言います。
そのうえで「何を見ていたの?」「これはどうなっているのかな?」「どうして赤いいちごと青いいちごがあるのかな?」などと問いかけ、子どもの好奇心や考える力、行動力を育んであげるとよいでしょう。
実際に作物を育てたり収穫したりすることで、食べ物がどうやって作られているかを学ぶことができ、生産の苦労や自然の恵みへの理解が深まる農業体験。普段とは異なる環境での体験は、子どもの興味・関心や創造性を刺激してくれることでしょう。
親子で一緒に土に触れ、汗を流し、収穫したものを美味しくいただく…そんな体験は、親子の関係を深め、思い出にも残るはず。ぜひ、親子で農業体験に出かけて、学びと発見に満ちたひとときを過ごしてみてはいかがでしょうか。
(プロフィール)
東根 明人さん
一般社団法人コーチングバリュー協会代表理事。早稲田大学教育学部卒業。順天堂大学大学院修了。留学先のライプチヒ大学(ドイツ)でコーディネーショントレーニングを学び、以後日本での普及に取り組む。主な著書に、『「動きことば」で苦手な子も楽しめる! 幼児のためのコーディネーション運動』『楽しみながら運動能力が身につく! 幼児のためのコーディネーション運動』(明治図書出版)など。間もなく第三弾が出版予定。
大羽 瑠美子さん
スポーツクラブインストラクターを経て、出産・子育て・介護のため7年間専業主婦。その間、ママのストレス解消と親子のコミュニケーション作りを目的に、ボランティアで活動。その後、自主活動で『大羽瑠美子体操教室』を主催。現在、一般社団法人コーチングバリュー協会専任コーチとして子ども、産前産後を含むママ、高齢者、障がい者、不登校児を対象に運動教室指導や、ママ、指導者向けのコーチングセミナー講師、コーディネーション運動の効果に関する調査、研究、指導員育成などに取り組んでいる。
制作協力
一般社団法人コーチングバリュー協会
日本の教育に寄与するため、スポーツや運動のコーチング分野からイノベーションを始めることを目標に2015年に設立。国内外の子どもから高齢者まで幅広い年齢層を対象に、実践と研究に基づいたコーディネーション運動・共感するコーチングを普及するため、運動教室やイベントの開催などの活動や指導者育成事業、各種研究及び開発、異文化交流事業などを手掛けている。



