
つらい花粉症。子どもを花粉症から守るために、家庭でできることとは?
最終更新日:2025/03/21
今や「国民病」とも言われるほど、多くの人が悩まされている「花粉症」。くしゃみ・鼻水・鼻づまり・目のかゆみ・のどの痛み・・・人によって症状や程度はさまざまですが、一度かかってしまうと日常生活や勉強・仕事への影響は決して少なくありません。
そんな厄介な花粉症ですが、実は近年、花粉症はますます低年齢化しつつあり、花粉症にかかる子どもが増加傾向にあるのだとか。大人でもつらい花粉症ですから、我慢が難しい子どもはさらにつらい思いをするのでは…なんて、不安に思う人もいるのではないでしょうか。
そこで今回は、子どもの花粉症について医療法人社団五良会理事長・竹内内科小児科医院院長の五藤良将先生にお話を伺いました。家庭でできる対策なども掲載します。
◆花粉症ってどんなもの?
花粉症とは、スギやヒノキ、ブタクサなどの草や木の花粉が原因となるアレルギー性疾患のことを言います。
「体内の免疫システムが花粉を『異物』と認識し過剰に反応することで、くしゃみ、鼻水・鼻づまり、目のかゆみ、涙目などの症状を引き起こします。重症の場合は、倦怠感や集中力の低下、喘息症状を伴うこともあります」
目や鼻に関わる症状が代表的ですが、喉の違和感やかゆみ、皮膚のかゆみや湿疹などが引き起こされることも。それだけでなく、花粉症は他の病気を引き出すリスクもあるのだとか。
「花粉症の症状が出ていると本来あるはずのバリア機能が破綻してしまいます。そのため、ふだんよりも風邪にかかりやすくなることもあるんですよ」
反対に、花粉症そのものの症状が風邪のようにひどい症状が出る場合もあり、一見しただけでは花粉症なのか風邪なのかは見分けがつきにくいこともあると先生は言います。
◆花粉症になってしまう原因は?
花粉症は「春先」に多いイメージがありますが、これは2月~4月に飛散するスギ・ヒノキの花粉によるもの。暖かく風の強い日や乾燥した日には特に多くの花粉が飛散し、たくさんの人を悩ませることになります。
それでは花粉症を発症してしまう原因は何でしょう?五藤先生によれば、花粉症になってしまう要因は「遺伝的な要因」と「環境的な要因」の両方が考えられるとのことです。
・遺伝的要因
両親のどちらかが花粉症の場合、子どもが花粉症になる確率は約30~50%、両親ともに花粉症の場合は約70%まで上がるといわれています。
・環境的要因
幼少期の生活環境や食生活が花粉症の発症に関わっていることも。たとえば、幼少期から大量の花粉にさらされ続けていたり、室内のダニ・ハウスダストの影響によって花粉症を発症するリスクが高まるとされています。
また、都市化が進んだことによって地面がアスファルトやコンクリートに覆われ、花粉が土に吸収されにくくなったことや、戦後を中心に多く植林されたスギが、伐採されずに大量の花粉を発生させる樹齢になってしまったことなども環境的要因として挙げられます。
発症年齢については、以前は小学校高学年くらいから症状の出る子が多かったのですが、近年では2~3歳ほどでも発症する子どもが増えているのだそう。特に花粉が多い地域では低年齢化が進んでいると五藤先生は言います。
◆子どもの花粉症で大人と異なる症状はある?治療はどうするの?
大人でもつらい花粉症ですが、大人と子どもで症状に差はあるのでしょうか?
「子どもは鼻腔が狭いため、鼻づまりが強く口呼吸が増えやすくなります。その結果、睡眠の質が低下し、日中の集中力に影響を及ぼすことがあります」
さらに、花粉症による慢性的な鼻閉は、小児の睡眠時無呼吸症候群(SAS)のリスクを高める可能性があると五藤先生は言います。
「特に、鼻閉が持続することで口呼吸が習慣化し、アデノイドや扁桃の肥大が悪化することで、SASの発症や症状の増悪につながることがあるため注意が必要です。また、目の症状が強い場合、こすりすぎることで結膜炎やものもらいを併発しやすいため、適切なケアが求められます」
また皮膚のバリア機能が未熟なため、花粉が付着すると湿疹やかゆみを引き起こしやすく、皮膚症状(花粉皮膚炎)が出やすいのも子どもの症状の特徴なのだそう。
それでは、子どもが花粉症にかかってしまった場合はどのように対応すればよいのでしょう。「成長とともに花粉症が治った」なんて話もありますから、花粉症のような症状があらわれても、しばらく様子見をしたほうがいいのかな…なんて思う人もいるかもしれません。
「確かに免疫の発達や体質の変化により思春期以降に症状が軽減したり、妊娠出産で大きく変わったりすることもあります」と五藤先生。ただ、成長とともに異なるアレルギー疾患を発症する「アレルギーマーチ」によって、喘息や食物アレルギーを併発するリスクもあるため、「花粉症を疑う症状がある場合、早期の適切な治療が重要です」と五藤先生は力を込めます。
「医療機関の充実している都市部では、症状が出たらすぐに受診する人が多いのですが、医療機関の少ない土地の場合、受診をためらったり様子見をしてしまう傾向が比較的多いと思います」
どの科を受診すればよいか迷った時には、まずかかりつけの小児科に診てもらうと良いでしょう。親が花粉症の治療をしている場合には、子どもも一緒に同じ病院に通うケースもあるそうです。
それでは、実際に子どもが花粉症と診断された場合にはどのような治療が行われるのでしょうか。
「子どもの花粉症治療としては、内服、点鼻、点眼などの薬物療法が挙げられます。花粉症の治療薬は生後6ヶ月から服用できるものがありますので、かかりつけ医に相談してみると良いでしょう」
花粉症治療に使用される代表的な薬物には以下のようなものが挙げられます。
-抗ヒスタミン薬(内服・点鼻・点眼薬)
-フェキソフェナジン(アレグラ):生後6か月から使用可能。眠気が少ない。
-レボセチリジン(ザイザル):生後6か月から使用可能。1日1回の投与で済む。
-ロイコトリエン受容体拮抗薬(鼻づまりが強い場合に使用)
-ステロイド点鼻薬(炎症を抑える)
また、最近ではスギ花粉症に対して有効な「舌下免疫療法」に取り組む人も増えています。「舌下免疫療法」とは、少量のアレルゲンを投与して体を慣れさせることで花粉症の症状を軽減するという治療法。舌下免疫療法については、複数の研究で有効性が示されており、小児の花粉症においても症状の軽減や長期的な改善が期待できます。
「舌下免疫療法」には5歳から取り組むことが可能ですが、3~5年間と長期間にわたって継続的に治療に取り組む必要がありますので、特に症状が重い子どもの場合、早めの受診と医師への相談がおすすめです。
◆花粉症から子どもを守るためにできる取り組みとは?
子どもを花粉症から守るためにはどのようなことを行えばよいでしょうか。まず、花粉症を発症しないための対策として、花粉症でなくてもマスクをすることは有効だと五藤先生は言います。
「マスクをすることによって花粉の吸入を防ぎ、発症リスクを減らすことが可能です。特にPM2.5などの大気汚染物質と結びつくと、アレルギー反応を強めることがありますので、環境が悪い日はマスクの着用が望ましいです」
その他、花粉症を軽減したり予防するために日常生活でできることについて、五藤先生に伺いました。「日常生活で花粉に触れる量や時間をなるべく少なくする」ことと「バランスの良い食事と規則正しい生活を送る」ことが大事です!
●衣類・身の回りの対策
<花粉に触れない、持ち込まないことが大切!>
・花粉の付きにくい素材(ポリエステルなど)の衣類を選ぶ
・外出のときには、帽子やメガネ、マスクを着用する
・帰宅時は、衣類や髪についた花粉を払い落としてから室内に入る
・帰宅後の手洗い、洗顔で花粉を除去する
・室内の換気は花粉の少ない朝に行う
・寝具やカーペットをこまめに掃除、洗濯する
●食事
<花粉の症状を和らげるといわれる食材や、腸内環境を整える食材を知っておきましょう>
・乳酸菌や食物繊維が豊富な食品・食材を積極的に摂るようにして、腸内環境を整える(ヨーグルト、納豆、味噌、キノコ類、ゴボウ、レンコン、海藻など):はちみつやバナナ、きなこといった、乳酸菌のエサとなるオリゴ糖を含むものと一緒に食べるのがおすすめ。乳酸菌が増殖してより効果が期待できます。
・抗炎症作用のある食材を摂る(青魚、トマト、緑茶など):DHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)は、花粉症のさまざまな症状を引き起こすアレルギー誘発物質ヒスタミンの働きを抑えます。サバやイワシ、サンマなどの青魚に多く含まれていますので、意識して摂取してみてください。
・アレルギー抑制作用のあるポリフェノールも有効(甜茶、シソ、チョコレート、ココア):
意外かもしれませんが、カカオポリフェノールが豊富に含まれるチョコレートやココアも、アレルギー症状抑制が期待できます。ただし摂り過ぎには注意して。甜茶はノンカフェインで味も甘めなので、子どもでも飲みやすいと思います。
●生活習慣
<正常な免疫機能を保てるように、普段から心がけます>
・規則正しい生活と十分な睡眠
・ストレスがアレルギーを悪化させるので、ストレスをためない(ストレスは自律神経のバランスを乱し、アレルギー反応を増強させることがあります)
・適度な運動で免疫バランスを整える
「花粉症は年々低年齢化しており、早期の予防と治療が重要です。医師と相談しながら適切な治療を受けることで、子どもが春を快適に過ごせるようサポートしていきましょう」と五藤先生。子どもは体の機能が未熟であるために、弱いところに症状が出がちです。なるべく屋内に花粉を取り込まないように環境を整えたり、体調管理のために生活習慣を工夫したりしながら、親子そろって花粉の時期でも楽しく過ごしたいですね。
プロフィール
五藤 良将(ごとう よしまさ)先生
医療法人社団五良会理事長、竹内内科小児科医院院長。防衛医科大学校卒業後、防衛医科大学校病院、自衛隊中央病院、自衛隊横須賀病院などで自衛隊医官として勤務。その後、千葉中央メディカルセンター、津田沼中央総合病院などを経て、2019年9月から竹内内科小児科医院を継承開業。 2021年10月に医療法人社団五良会を設立し理事長となる。現在、五良会クリニック白金高輪、五良ファミリークリニックセンター南も運営し、幅広い診療を行う。テレビ出演や医療監修も多数。 内科、糖尿病内科、小児科、皮膚科、アレルギー科。



