
まずは気軽に五七五。子どもの語彙力・表現力・感性を「俳句」で伸ばそう!
最終更新日:2025/01/24
私たちをとりまく自然や日常の風景、情景などを五・七・五の17音で表す伝統的な文芸「俳句」。世界で最も短い詩の形式と言われる俳句は、小学校の国語の授業に必修として導入されており、近年はバラエティ番組でも取り上げられるなど、私たちにとってとてもなじみ深い存在です。
そこで今回は、小さな子どもから大人まで一緒に楽しめる俳句づくりのコツや俳句の魅力、さらに俳句に取り組むことの教育的な効果などについて、「日本学校俳句研究会」代表の小山正見さんにお話を伺いました。
◆俳句は子どものための児童文学
「俳句」とは、五・七・五の17音で作られ、季節を感じられる「季語」が含まれた定型詩のことを言います。独特のリズム感や情感を備えた俳句は、日本人に長く親しまれてきました。短く、シンプルで奥深さもある俳句。小山さんは、「俳句は子どもにこそ楽しく作れるもの」だと言います。
「たとえば子どもが小説を書くのは難しいですよね。でも俳句なら児童でも簡単に創作できますし、できたものには何らかの『情感』が宿ります。ですから、私は俳句のことを『子ども自身が作る文学』という意味での『児童文学』だと思っています」
また俳句は「子ども達が21世紀を生き抜く力を育ててくれる学習材でもある」と小山さん。俳句に取り組むことによって、どのような力が身につくのでしょうか?
<観察眼が身につく>
自然や日常の情景をありのままに描写することに重点を置く俳句。情景や物を言葉で表現するためには、対象をよく「見る」必要があり、観察眼が養われます。
<発想力が磨かれる>
学校での学習は、主に「筋道を立てて考える」ということが重視されがちと小山さん。一方、俳句づくりは「ひらめき」によって作品の面白さがぐっと増すといいます。常識的ではない、突拍子もない言葉選びを歓迎する俳句に触れることは、自由な発想力を磨くことにも繋がります。
<豊かな表現力や語彙力が身につく>
単語ひとつ、あるいは一文字変えただけでも句の様相がガラリと変わるのが俳句の楽しさ。こどもが言葉に興味を持つようになり、表現力や語彙力が磨かれていきます。俳句特有の「季語」を学ぶことも語彙力のアップにつながります。
<自然や伝統文化に興味を持つきっかけに>
俳句では「自然」が題材になることが多くあります。自然に目を向け、よく観察するうちに、自然の良さや大切さを感じとることもできるでしょう。「季語」や俳句特有の言い回しに親しむことで、日本の伝統や文化、感性を学ぶこともできます。
<コミュニケーション能力も高まる>
俳句になくてはならないものと小山さんが話すのが「句会」。例えば小説の場合、書く人(作者)と読む人(読者)が別々の場所にいることが当たり前ですが、お互いが作者と読者になり、句を詠みあう「句会」があることは俳句ならでは特徴です。句を鑑賞して、相手の気持ちや感性を知ったり、共感をしたり…そんなコミュニケーションができる点も俳句の魅力です。
◆未就学児からできる俳句の作り方
現在の小学校の学習指導要領では3年生の国語の時間に俳句について学び、高学年になったら俳句をつくりますが、「小学校に入学したばかりの1年生でも、未就学児でも、俳句は簡単に作れます」と小山さんは言います。
「俳句は、五・七・五の17音で作りますが、すべてをゼロから作るのは、大人でも子どもでも難しいものです。そこで私たちは最初の五文字と最後の五文字を設定したお題を出し、中の七文字(中七)だけを考えて、俳句を作る方法を教えています」
小山さん流「中七(なかしち)俳句」の作り方
子どもとの会話の中で、最初と最後の5文字、「上五(かみご)」「下五(しもご)」を決めていきます。たとえば4月なら最初の五文字を「春がきた」と決めてみます。さらに「○○ちゃんは今何年生?」などの会話から、最後の五文字を「一年生」と決めます。こうするとあとは、真ん中に収まる七文字「中七(なかしち)」を考えるだけで俳句が完成します。
「例えば、『春がきた 給食おいしい 一年生』、『春がきた せんせい大好き 一年生』といった俳句が生まれます。『春』と『一年生』という言葉からイメージする言葉は、一人ひとり違います。俳句作りは、直感やイメージを短い言葉にしてプラスするだけなので、すごく簡単ですし、子どもの想いや個性が光る素晴らしい俳句が生まれるんですよ」
しかもこのやり方なら、最初の五文字に、「春」という季語を入れていますから、「季語を入れる」という俳句のルールを意識せず、より自由な発想で俳句作りができます。なるほど!これなら俳句作りのハードルはグンと下がりますね。
「色々な句をつくれたら、今度は最初と最後の五文字をアレンジしてみましょう。たとえば最後の五文字を『お母さん』に替えてみれば、今度は『春がきた おめかししてる お母さん』なんていう句ができたり、『のぼり棒』に替えれば『春がきた ひとりで立ってる のぼり棒』なんて句に発展していきます」
また、この「中七」を考えるときには、「文字数はあまり気にしなくても良い」と小山さんは言います
「本当に表現したいことや言いたいことを、完璧に七文字の言葉に置き換えるのは、小さな子どもにとっては難しいこと。七文字でない言葉を挙げたり、ときには文章をあてはめることもあるとおもいます。でも五・七・五というのはあくまで形にすぎませんから、最初は必ずしも七文字にこだわらなくても大丈夫です。」
はじめは文章の形になっていても、その中で「中心的なことは何か?」「個性的な部分は何か?」と考え、より短く表現する方法を考えることも、語彙力や表現力を磨くひとつの訓練になると小山さん。子どもの発した言葉やアイデア、感性を否定せず、「楽しく言葉遊びをして、作品もできて楽しかった!」という思いをもってもらうことが大切です。
◆俳句には「読解力」も大事!
「つくる」ということだけでなく、作品から様々なことを読み取る「読解力」も俳句には大切だと小山さんは言います。
「たとえば、夏休みのことを俳句にしようと言って、『じいちゃんと 横浜行った 夏休み』という句を子どもが作ったとします。一見、単に出来事が書かれているだけに見えますが、そこに、その子のどんな心情があるかを読み取ることが大事なんです」
おじいちゃんとは久しぶりに会ったのかな、横浜のどこに行ったのかな、中華街でおいしいものを食べたのかな、どんなおじいちゃんなのかな…などなど、いろいろなことを想像したり、作り手に問いかけたりすることで、自分とは異なる世界が見えてきます。
「俳句は、表現したいことを17音に“圧縮”したもので、『読む』ということはそれを“解凍”すること。ですが、解凍した人それぞれでまた違った世界が生まれるのも俳句の楽しさなんです」
◆家族で俳句作りを楽しもう!
このように俳句作りはみんなで楽しめるもの。となると、家庭でもぜひやってみたい!ですよね。小山さんに、冬~春の季語を使って詠み合う俳句作りのコツを教えていただきました。
●冬~春の俳句づくりにおすすめの季語
俳句に欠かせない「季語」。1月~3月に関連する季語には以下のようなものがあります。季語からイメージする言葉を挙げたり、逆に12音の言葉に季語をつけるだけでも俳句が完成しますよ。
・雪だるま、雪合戦、雪が降る、雪あそび、息白し、節分、福は内、バレンタイン、梅の花、ひな祭り など
●一家に一冊「歳時記」を
「季語」を調べるための辞書のような本を「歳時記」と言います。小山さんがおすすめしてくれたのが『大人も読みたいこども歳時記』(長谷川櫂 監修 季語と歳時記の回 編著 小学館)。様々な季語がカラー写真と共に紹介されているだけでなく、文字には全てルビが振ってあり、その季語を使って子どもが作った例句も掲載されています。俳句作りのヒントになるのはもちろん、さまざまな言葉を知ったり、もともと知っている言葉の意味をより深く理解することもできますよ。
●俳句を家族で楽しむためのポイント
俳句を作ったら、必ず親が書きとめてあげましょう。遊び感覚で定期的に継続して行って記録しておくと、子どもの成長記録としても、とてもよい記念になりますよ。
また、俳句を詠み合うときには俳句に優劣をつけたり添削をしないことも大事。別の言葉を使えばもっとよい俳句になるのでは?などと大人はついアドバイスしてしまいがちですが、俳句づくりは算数のように正しい答えを導き出すものではありません。みんなで楽しく言葉遊びをして、いろいろな感想を言い合って、おもしろかった!またやってみたい、と思えることが俳句作りの醍醐味なのです。
「もうひとつ、家族で俳句を楽しむときのポイントは、『俳句になっていなくてもよい』ということ。五・七・五の形式にとらわれすぎず、自由に発想して作品を完成させましょう。五・七・五のリズムは、俳句づくりを重ねるにつれて、自然と身につきますよ」
●写真を題材にした俳句作りも楽しい!
今はスマホでいつでもどこでも簡単に写真が撮れます。その写真を題材にして、俳句を作ってみましょう。お散歩中や外出時に見かけた花や木々などの自然の風景、季節や行事ごとの飾りつけやアイテムを写せば、季語も簡単に取り込むことができます。
親が撮った写真を見せて、子どもと俳句を作ったら、それを写真とともにスマホに保存しておくのもいいですし、プライベートな連絡用SNSなどを活用すれば、おじいちゃんやおばあちゃんとも俳句作りを共有しながら楽しめますね。
楽しみながら俳句作りをすることで、自然と観察力、語彙力、表現力、感性が育まれるなんて、素晴らしいですよね。さらに、互いに詠み合うことで、相手の気持ちを知り、相互理解を深めることもできるのも俳句の魅力であり楽しみです。
お正月や節分、ひな祭りなど、日本の伝統・文化に触れる機会も多い1月~3月。身近な行事や自然を題材に、ぜひ親子で俳句作りを楽しんでみましょう。子どもは、ものの見方や表現力がとても自由なので、きっと大人がハッとするようなステキな俳句が生まれますよ!
(プロフィール)
小山 正見さん
1948年神奈川県川崎市生まれ。俳人。東京都江東区の小学校校長などを歴任。退任後の現在も、東京を中心に各地の学校で俳句教育に携わる。日本学校俳句研究会代表。「梓」俳句会同人。現代俳句協会会員。コミュニティスペース「感泣亭」主宰。著書に、句集『大花野』、『発見、感動、創造、どの子もできる十分間俳句』、『楽しい俳句の授業アイデア50』、『俳句でみがこう言葉の力』などがある。



