子どもの基本的な運動能力を高める「コーディネーショントレーニング」とは?
最終更新日:2025/01/10
歩いたり走ったりするのが苦手だったり、お遊戯の動作がどこかぎこちなかったり。「うちの子、運動神経が悪いのかな…」なんて悩む親は少なくありません。でも、そもそも「運動神経」とはどんな能力のことを言うのでしょう?また、「運動神経」は生まれつき良し悪しがあったり、良くなったりするものなのでしょうか?
そこで今回は運動神経とはいったい何か、また運動神経を高めてくれるといわれる「コーディネーショントレーニング」について、一般社団法人コーチングバリュー協会代表理事の東根明人さんと、専任コーチとして子どもたちの指導にあたる大羽瑠美子さんにお話を伺いました。
◆運動神経の良し悪しは生まれつきのもの?
「親がスポーツをしていたり、有名アスリートだったりすると、その人の子どもも運動神経がよさそう」、「私は走るのが遅いから、うちの子も足が遅いかも…」。私たちは、運動神経の良し悪しは遺伝しやすいと思いがち。でも東根さんによると、運動神経は遺伝に伴ういわゆる「生まれつき」のものではなく、ほとんどが後天的なものなのだといいます。
「骨格などは多少なりとも遺伝しますから、たとえば親がアスリートの子どもが、運動向きの骨格を持って生まれてくる可能性はあります。ただ、いくら骨格や体つきに恵まれていても、何もしなければアスリートにはなれません。運動も勉強も同じことで、練習や学習をすれば伸びるし、しなければ伸びないものなんです。そして、『どう行うか』がポイントなんです」
体格などの身体的特徴は「生まれつき」のものがあるとしても、運動神経については後天的な要素が強く、運動をする・しないという「環境による差」のほうが大きいそう。親が「私は神経が悪いから…」と思い込んでしまって普段からあまり身体を動かす機会がなく、結果として子どもも運動が苦手になってしまう、というケースも少なくないと言います。
「きちんとトレーニングをすれば、子どもだけでなくシニア世代になっても運動神経は伸ばせます」と東根さん。運動ができない・苦手という思い込みを捨てて子どもと一緒に身体を動かし、「ママが動いているから」「運動していて楽しそうだから」といった気持ちを育むことも、子どもの運動能力を高める上では大切です。
そしてもうひとつ親が心にとめてほしいことは、「運動神経の発達は個人差がとても大きい」ということだと東根さんは言います。
「たとえば3歳のときに今一つ動きがスムーズでない子どもがいたとして、その後もずっと同じというわけではありません。人間の成長のスピードは一人ひとり違っていて、早熟タイプもいれば、晩熟タイプもいます。“今”運動があまりできないからといって『きっとこの先も…』なんて決めつけてしまったり、『幼稚園の同じクラスの子はできるのに、うちの子だけできない』なんて、親が落ち込む必要はないのですよ」
◆コーディネーション能力とは?
運動能力に関わる言葉として、近年「コーディネーション能力」という言葉を耳にすることも多いのではないでしょうか。「コーディネーション能力」いったいどのような能力のことを言うのでしょう?
「コーディネーション能力とは、身体を動かすための神経系の運動能力のことです。たとえば字を書くこともひとつの運動です。『あ』という字を書く、という情報が脳(神経)に入り、それを筋肉に伝えてアウトプットすることで、実際に手指を動かして(運動)字を書く、という一連の流れにつながります」
私たちが行う日常の動作にはすべて、神経系のコーディネーション能力が関わっています。コーチングバリュー協会では、コーディネーション能力を下記の5つの力に分類し、子どもの成長に合わせて1~5を総合的に実践しているといいます。
1.リズム能力・・・リズムやタイミングをとる
2.バランス能力・・・バランスを保つ。姿勢を立て直す
3.操作能力・・・手足や用具を精密に操作する
4.反応能力・・・合図に素早く反応する。素早く動く
5.認知能力・・・見る、聞く、感じる、判断する
コーディネーション能力はスポーツに限らない、あらゆる「動作」の基本。この能力を高めることが結果的に、走る・跳ぶ・投げるといったスポーツ的な動作を上手にこなせる、いわゆる「運動神経」の向上にも繋がり、小学校の体育の授業で学ぶ運動や、中学に入って部活を始めるときなどに、スムーズに取り組むことができるようになります。
「いちど自転車が運転できるようになると、しばらく乗らなくても運転できますよね。このように、身体は『動き』を記憶しています。幼児期にいろいろな動きを覚えて、コーディネーション能力を高めておくと、こうした運動の『もと』が身体に備わります。たとえば『ボールを投げる』という動作は、野球はもちろん、テニスやバドミントンでラケットを振る動作や、バレーボールのサーブやスパイクなど、さまざまな競技に共通した動きがありますよね。基礎的な動きさえ備わっていれば、初めてのスポーツに挑戦するときも、身体のなかの記憶を引き出し、プラスαでそのスポーツ独自の動きを加えていくことで、スムーズに動くことができるのです」
専任コーチの大羽さんは「いろいろな動きが身について、インプットとアウトプットが素早くできるようになると、次第に身のこなしがよくなってくるんですよ」と話します。さらに大羽さんによると、子どもたちのコーディネーション能力が高まることは「ケガの予防」にも繋がるのだとか。
「たとえば前にあるものを上手によけたり、転んでも瞬時に手をついたりといった動作が自然にできるようになります。コーディネーション能力を高めることで運動が上手にできるようになることはもちろんですが、こうした効果を喜んで頂ける保護者の方はとても多いですね」
◆家庭でできるコーディネーション能力を高める運動!
それでは、子どものコーディネーション能力を高めるためには具体的にどのようなことに取り組めばよいのでしょうか?家庭で簡単にできる、幼児~未就学児向けのコーディネーション運動をいくつか教えていただきました。
子どもは、跳んだり、揺れたり、という動きが大好き。まずは、「ぴょんぴょん跳ぶ、ぐるぐる回る、ゆらゆらする、ふわふわする」といった4つの「基本的な動き」を親子で楽しんでみましょう。一緒にジャンプ、高い高い、親の周りをぐるぐる、ハイタッチ、追いかけっこ、寝っ転がって一緒にごろごろ…。まだ立ったり歩いたりできない時期でも、親が抱えたり支えたりしてピョンピョンすれば、子どもの運動能力を高めることに繋がるといいます。
「高い高いや、支えてぴょんぴょんなどは、子どもをあやすときなど、とくに意識することなくご家庭でやっているのではないでしょうか。実はこれらの動きを、コーディネーション能力を高めるための『効果的な運動』として意識して行うと、もっとやってみよう、親も一緒にやろうというプラスの思考が加わって、より身体を動かす機会が増えていくと思います」
●階段のぼり
自宅や外の階段を子どもが登りたがるようになったら、危険がないようにサポートしながら、子どもの動きを見守りましょう。階段の登り降りは全身を使う動きであるだけでなく、子ども自身が、自分の目線から情報を取りながら、どう動けばよいかを考えるという高度な運動なのだそう。親が見守ってくれることは安心感にもつながります。
忙しいときは、抱っこして階段の登り降りをしたほうが親も楽かもしれませんが、1日に数回だけでも、待ちの姿勢で子どもの動きを見守ってあげましょう。時間がかかることもあるかもしれませんが、それも5~10分程度のこと。時間のゆとりを持つことは、気持ちのゆとりにもつながります。
●いつもとちょっと違うルートでお散歩
お散歩するときは、段差のない平坦な道だけでなく、ときには少し段差やアップダウンがある場所を選んでみましょう。公園などに段差やゆるやかな小山などがあれば、あえてそんな場所で遊ぶこともおすすめです。なぜかというと、「切り替える」という脳の機能を使うからです。
●ボールを使った遊びは効果的!
ボール投げやボール転がし、ボール拾いなど、ボールを使った遊びは、コーディネーション能力を高める上でとても効果的。ボールを投げるという動作、ボールを目で追う、ボールの行き先を予測する、動いているボールをキャッチするなど、ボール遊びはさまざまなコーディネーション能力が必要なんです。安全面にしっかり配慮して、日々の遊びの中に取り入れてみましょう。
●おにごっこ
追いかけると逃げる、逃げると追いかけてくる、という動きは、幼児期の子どもたちにとっては、本能的なものなのだそう。単純に追いかけっこを楽しむだけでなく、ときには親が子どもを追いかけたり、逆に子どもが親を追いかけたり、好きな動物に変身したり、役割を交替しながら楽しく動いてみましょう。どちらが鬼になるかを子どもに決めさせてあげると、運動能力だけでなく、自己決定力も育まれます。
●ジャンプ
高さ、前・後、右・左など、目標を決めてジャンプしてみましょう。赤ちゃんでも、親が支えてあげればできますよ。走れるようになったら、助走もプラスしてジャンプするのもおすすめです。
これらの運動は、子どもだけでなく、パパ、ママ、おじいちゃん、おばあちゃんもぜひ一緒にやってみましょう。たとえば公園に出かけたら、大人も一緒にブランコをこいだり、滑り台で遊んだり。想像している以上にいい運動になりますし、大人の運動能力を高めたり、維持することにもつながりますよ。ついでに、コーディネーション運動ですね!
「もう一つ大切なのは『無理強いしないこと』です。強制すると、せっかくの運動も楽しくなくなり、逆に嫌いになってしまいます。あくまでもその子のペースで、「楽しく」取り組むことを忘れないようにしましょう」
子どもたちの運動能力は、いろいろな動きを覚えれば覚えるほどどんどんアップしていきます。身近な家族が一緒に運動してくれることは子どもにとってとても嬉しいこと。嬉しいし、楽しいからこそ、自由に自分が好きな動きを見つけて、運動ができるようになっていきます。大人もこども一緒に運動をすることは、大人の健康を子どもが引き上げてくれることにも繋がります。
いつもの遊びが、実はあらゆる世代の運動能力を高めてくれる…そんな風に意識しながら、楽しく家族で「いろいろな動き」を楽しんでみましょう!
(プロフィール)
東根 明人さん
一般社団法人コーチングバリュー協会代表理事。東京保健医療専門職大学特任教授。早稲田大学教育学部卒業。順天堂大学大学院修了。留学先のライプチヒ大学(ドイツ)でコーディネーショントレーニングを学び、以後日本での普及に取り組む。主な著書に、『「動きことば」で苦手な子も楽しめる! 幼児のためのコーディネーション運動』『楽しみながら運動能力が身につく! 幼児のためのコーディネーション運動』(明治図書出版)などがある。
大羽 瑠美子さん
スポーツクラブインストラクターを経て、出産・子育て・介護のため7年間専業主婦。その間、ママのストレス解消と親子のコミュニケーション作りを目的に、ボランティアで活動。その後、自主活動で『大羽瑠美子体操教室』を主催。現在、一般社団法人コーチングバリュー協会専任コーチとして子ども、産前産後を含むママ、高齢者を対象に運動教室指導や、ママ、指導者向けのコーチングセミナー講師、コーディネーション運動の効果に関する調査、研究、指導員育成などに取り組んでいる。
制作協力
一般社団法人コーチングバリュー協会
日本の教育に寄与するため、スポーツや運動のコーチング分野からイノベーションを始めることを目標に2015年に設立。国内外の子どもから高齢者まで幅広い年齢層を対象に、実践と研究に基づいたコーディネーション運動・共感するコーチングを普及するため、運動教室やイベントの開催などの活動や指導者育成事業、各種研究及び開発、異文化交流事業などを手掛けている。