子どもの「ネットリテラシー」を高めるために、家庭でできる取り組みとは?
最終更新日:2024/11/19
インターネットの利用者はますます低年齢化しており、中には文字を書いたりお話ができるようになる前からスマートフォンが使えるという子どもも。今や、子どもたちにとってもネットは身近で当たり前の存在になりました。しかしその一方、使い方を間違えれば、トラブルや犯罪に巻き込まれる危険性も少なくありません。
こうしたリスクを未然に防ぎ、安全に楽しくインターネットを利用するために欠かせないのが「ネットリテラシー」。その重要性や、ネットリテラシーを育てるために家庭でできる取り組みなどについて、一般社団法人日本メディアリテラシー協会代表理事の寺島絵里花さんにお話を伺いました。
◆ネットリテラシーと、その必要性とは
そもそも「ネットリテラシー」とは何でしょうか。寺島さんは、ネットリテラシーとは、メディア情報リテラシーという大きな枠組みのなかに含まれているさまざまなリテラシーのひとつだと言います。
「そもそもの『リテラシー』という言葉の意味は、読み書きの能力のことを指します。しかし近年ではさまざまな分野における情報や技術の活用スキルという意味で使われることが多くなりました。ネットリテラシーとは、インターネットを正しく活用するためのスキルということになります」
子どもたちにとってインターネットやデジタルデバイスがますます身近になった昨今。スマートフォンやタブレットなどを使って動画やゲーム、SNSを利用するのは子どもたちにとっては「当たり前」のことになりつつあります。その一方、子どもがインターネット上の真偽不明の情報に惑わされたり、思わぬトラブルや、ともすれば犯罪に巻き込まれてしまう例も少なくありません。
「たとえば車は、運転の仕方や規則を学び、免許を取得してからでないと運転できませんよね。ネットを利用するために免許は必要ありませんが、ネットリテラシーをまったく持たずにネットを利用するのは、無免許で車を運転するようなイメージです。正しいルールと使い方を知ってから使わなければ、トラブルなどに巻き込まれてしまう危険があるんです」
◆こんな使い方をしていませんか?
今は、小学生が一人一台のデジタル端末(タブレットなど)を持ち、日々の学習に活用する時代になりました。学校などの場合は端末を使用する前に使い方の指導を行い、端末そのものにも子どもにとって有害なサイトなどは見られないようにフィルタリングがかけられています。
しかし未就学児の場合は、自宅で親が使用しているスマートフォンやタブレットをそのまま見せていることが多いのではないでしょうか。「実はそこが落とし穴なんですよ」と、寺島さんは指摘します。
「親が使用している端末には、ほぼフィルタリングがかけられていません。そのような無防備な状態のまま子どもに端末を使わせれば、当然、子どもはどんなサイトにもにもアクセスできてしまいます」
親の端末を子どもそのまま渡しても「小さな子どもだから大丈夫」「使い方はわからないだろうから大丈夫」と大人は考えてしまいがちです。しかし今は、子どもが赤ちゃんのときから親がスマホを片手に育児をすることも多く、子どもは親がスマホを使う様子を見ながら育っているため、使い方を教えなくても意外とスイスイ操作ができてしまうと寺島さんは言います。
また現在では検索が非常に簡単に行えるようになっています。1文字タップするだけで変換候補が表示されますし、検索の際には関連する言葉が次々と提示されます。また、音声入力を使用しても高い精度で検索することが可能です。さらに、操作画面もより直感的で扱いやすくなっており、未就学児でも、親が思っている以上に簡単に端末を操作できます。このため、親が避けたいコンテンツに子どもが勝手にアクセスしてしまうといったリスクも高まっています。
「とはいえ、端末=悪いものということではありません。公共交通機関など、静かにしなければいけない場所で子どもがぐずってしまったときなどに、スマホなどで子どもが好きな動画を見せることは、現実的にとても多いと思います。子どもがおとなしく動画を見てくれることは、育児に対する親の負担を減らしてくれることにも役立ちますし、それによって親の気持ちが楽になることもありますよね。重要なのは、未就学児にスマホを使わせないということではなく、インターネットやデジタルデバイスの賢い使い方を知ることなんです」
◆リテラシー教育の第一歩は「適切な活用方法」を知ることから
それでは実際、スマートフォンやタブレット、あるいはインターネットのコンテンツをどのように利用すればよいのでしょうか。子どもと一緒にできる上手な使い方について、寺島さんに教えていただきました。
●親のスマホやタブレット、パソコンなどは子どもには使わせない
先述の通り、親が使用している端末にはフィルタリングがかけられていないことが多くあります。そのまま子どもに渡して自由に子どもに使わせるといったことは避けたほうがよいでしょう。
●コンテンツを見るときは大きな画面で
ネットで子ども用の動画を検索して見せる場合は、スマホやタブレットの小さな画面ではなく、テレビなど大きな画面につないで見せることをおすすめします。これには、子どもにおすすめのできないコンテンツを避けるという意味合いもありますが、もう一つの理由として、小さな画面を見ることが、子どもの身体的な成長に悪影響を及ぼす可能性がある点が挙げられます。
たとえば幼児の頃から、スマホなどの小さな画面で動画などを長時間見続けることで、「急性内斜視」、いわゆる「より目」になってしまう疾患が増えているのだとか。また、小さな端末を覗き込むように見ることで、猫背やストレートネックなど姿勢にも悪影響を及ぼす可能性があります。
市販のHDMIケーブルを、端末とテレビのHDMI端子につなぐだけで、テレビの大きな画面で見ることができます。HDMI端子のない端末でも、変換アダプターをつなげばテレビで視聴することは可能です。
親も一緒に見ることができる大きな画面を、椅子などに座って正しい姿勢で見るようにしましょう。
●子ども用のタブレットを使う
子どもにタブレットを使わせるのであれば、子ども用のタブレット端末を購入するのもおすすめ。「子ども用タブレット」と検索すれば、2万円以内で購入できるものがたくさん出てきます。子ども用のものは、子ども専用のコンテンツしか見ることができませんし、利用時間の設定や、子どもがどんなコンテンツを好んで見ているかといったことも把握できます。子どもが操作しやすくなっていますので、子どもの端末デビューにもおすすめです。
●動画配信サイトを見るときは、子ども専用に設定
知らない方も多くいますが、実はYouTube・Instagram・TikTok・X(旧Twitter)などは、13歳以下の使用を推奨していません。特にYouTubeはその気軽さとコンテンツの多さから、日常的に子どもに見せている親も多いのですが、制限をかけないで見せていると、子どもにはふさわしくない動画を目にする機会も増えてしまいます。
子どもがYouTubeを視聴する機会が多い場合は、「YouTube Kids」というアプリを導入することをおすすめします。このアプリ内なら、子どもに有害な動画にはアクセスできませんし、子どもが楽しめコンテンツがたくさん用意されているので、安心して見ることができますよ。
また、このような年齢制限があることについても折に触れて説明し、「インターネットに守るべきルールがある」ということを意識させることも大切です。
◆まずは大人がしっかりと「ネットリテラシー」を守ることから
「子どもにネットリテラシーについて教えるだけでなく、親自身がネットやSNSをどのように使っているかを見直してみることも必要だと思います。たとえば、SNSに自分の子どもの写真や動画をそのまま出している親は多いのですが、それが果たして子どもの将来にとってどうなのか、といったことも今一度考えてみるとよいかもしれません」
子どもの顔をそのままネット上に公開してしまうことは、子ども自身を危険に晒したり、あるいは望まない使用のされ方をしてしまうなど大きなリスクを伴います。そして、一度ネットに公開してしまったものは、削除したとしても残ってしまいます。
小さい頃は、「かわいいから」「思い出になるから」という気持ちで載せているかもしれません。けれども、子どもが大きくなって「こんなことはやって欲しくなかった」と言う可能性はありますし、そもそも小さな子どもは、親に「自分の写真をネットにのせてもいい」と許可することなどできません。
自分の子どもといえども、子どもには子どものプライバシーやその先の人生があります。今、子どもの写真をそのまま載せることで、物心ついた子どもがどのように思うのか。子どものことを考えてSNSなどを利用するように心がけましょう。
「今はネットを通じてさまざまな人の生活状況などを目にすることも多く、自分と他人を比較して苦しくなったり、困ったり、悩んだり迷ったりする人も増えています。そうしたことを鵜呑みにしてしまうこともまた、リテラシーが低い状態と言えるかもしれません。ネットではなく自分の生活をもっと丁寧にすごしたり、人と会う時間を大事にする、自分らしく生活するということも忘れてはいけないのではないかと思います」
莫大な情報量を誇り、あらゆるボーダーを越えて世界中から多くの人が集まるインターネットの世界。それだけに、明確なルールや安全な仕組みを作ることは困難であり、自分や他人を守るためにもネットリテラシーを身につけることは欠かせません。まず大切なのは、親がネットやリテラシーに対する興味関心と知識を持ち、それを守ること。安全にインターネットを楽しむために、子どもと一緒にネットリテラシーについて学び、しっかり身につけていきたいですね!
(プロフィール)
寺島 絵里花さん
一般社団法人 日本メディアリテラシー協会設立者。子どもたちや、保護者のメディア情報リテラシーの意識向上と、デジタル機器の使用改善に力を注ぐ。学術的な知識と親としての実体験を軸に、メディア情報リテラシー教育の認知活動、研究を行う。行政、企業、親、子ども、学生を対象とした講演、ワークショップ、研修などは、過去8年間で600回以上。約8万人が参加している。ニューヨークタイムズ、日本経済新聞、朝日小学生新聞、致知出版などの取材を受ける。小中学生の3児の母。