本番に強くなるには?子どもの『勝負強さ』を育む接し方と環境づくり
最終更新日:2024/11/08
学校のテストやスポーツの試合、習い事の進級試験や発表会…緊張感のある「ここ一番」という場面は、子どもの成長過程でも数多く訪れるものです。そんなとき、積み重ねた練習や勉強の成果を出し切るためには「勝負強さ」が欠かせません。いったい、「本番に強い人」とはどんな人なのでしょう?そして、本番に強くなるためにできることはあるのでしょうか?
そこで今回は、株式会社さちうえるの代表取締役でメンタルコーチの手塚幸恵さんに、子どもが「勝負強さ」を身につけるためにどんなことを心がけたらよいか、普段の生活の中でもできる取り組みや心がけたほうがよいことなどについて伺いました。
◆「本番に強い人」ってどんな人?
練習や勉強を積み重ねたのに、いざ本番になった時、緊張や不安などメンタル面が原因で実力を出し切れず悔しい思いをする…そんな経験を持つ人は少なくないでしょう。スポーツの試合や試験、あるいは仕事でも、ここぞ!という「勝負どき」はだれしも経験するもの。そんな時に、努力の成果や実力を出し切れる「勝負強さ」を身につけるためには、一体どうすればよいのでしょうか。
まず知りたいのは、そもそも「勝負強さ」とはどんな力なのかということ。どういう人が「本番に強い人」なんでしょうか。
「本番に強い人の特徴は『今やるべきことに集中できる』ということだと思います。自分がコントロールできることとできないことをしっかりと理解したうえで、自分がコントールできることに全力を出せる人は、本番に強いですね」
「今日の相手、強そうだな…」とか「今日の会場、やりにくそう」といった、自分ではどうしようもないことに気を取られてしまったり、「今日は親が観に来ている」といったことで気が散ってしまってやるべきことに集中できない、あるいは「今日勝てるかな…」とか「失敗したらどうしよう…」と、始まる前からあれこれ考えてしまう人は、なかなか力を上手く発揮できません。
一方、本番に強い人はこうしたさまざまな外的要因に気を取られず、自分のやれることに集中して今まで培った力を発揮できると手塚さんは言います。そして、そんな「勝負強さ」を育むために、メンタルトレーニングは有効な方法のひとつです。
「メンタルトレーニングは、心を『鍛える』というよりは、自分で心の状態を整えられるようにするもの。心を良い状態に近づけ、その良い状態をできるだけ保てるようにするという意味合いが大きいです。メンタルトレーニングに取り組むと、今の自分の状態を知ってコントールすることや、大事な場面でも平常心で臨むことができるようになります」
大事な場面を迎えて、緊張や不安を感じるのは人間の本能として「当たり前」のこと。本番に強くなるためにはそれを分かった上で、緊張とリラックスのバランスをいかに取るかということが大事であり、そのためにメンタルトレーニングは大いに役立つと手塚さんは言います。
「メンタルトレーニングを行うことによって自分に集中することができ、自信が持てるようになります。そして、他人との比較ではなく、自分の成長に目を向けることができるという効果もあります」
◆勝負強さの根源は「ワクワク」にあり!
手塚さんによると、メンタルトレーニングにはいくつからでも取り組むことができるそう。ただ、幼児期や小学校低学年の子どもたちには、本人の取り組みよりも、周囲にいる大人たちの関わり方のほうが重要と手塚さんはいいます。
手塚さんによると、まず大切なのは「楽しい」「ワクワクする」「これやってみたい」といった気持ちを大切にし、それを伸ばせるような環境や接し方だと言います。それはいったいなぜでしょうか?
「何かをはじめたばかりの時は、できるようになるたびに嬉しくて、次に進むのが楽しみになりますよね。ですが、成長したり技術が向上して、勝負や試合、テストといった機会が増えてくると、『なんでできないんだろう?』といったマイナス思考が顔を出すようにります。そんな時、『できた!』という体験や、『ワクワクする』『楽しい』という気持ちをたくさん経験していると、それが思考をポジティブな方向に切り替えるためのスイッチになりますし、いつもプラス思考で考えられる子に育っていくんです」
5歳から8歳はプレゴールデンエイジと呼ばれ、神経系の発達が著しい時期。この時期にさまざまな体験をすること、特に「楽しい」「うれしい」「面白い」「できた!」などの感情を伴う経験を積んでおくことが、「勝負強さ」を育むベースになるのだそう。だからこそ「子どもがやってみたいと思ったことはぜひ体験させてあげてほしい」と手塚さんは言います。
「興味を持ったことを全て実際にやらせてあげるのは難しいかもしれません。でも、今はインターネットを通じて映像などを見ることができます。映像などを見せて一緒に楽しむということも『体験』のうちに入るので、そういった形でも子どもの興味・関心を広げていけるように心がけましょう」
また、チャレンジをした子どもに対して、「できた」「できない」という結果だけでなく、過程に目を向けることも大切だと手塚さんは言います。
「小さな成果や成長でも見つけて褒めてあげることで、失敗・成功にとらわれず“できるようになった自分”や“チャレンジしている自分”が嬉しくなり、より自分のやることに集中できるようになっていくんです」
◆大事なのは「聴くこと」と「褒めること」
子どもがワクワクできる、挑戦しやすい環境づくりを心がける一方、日々の子どもとの接し方や声がけももちろん大切です。まず大事にしてほしいのは子どもの話を「聴いてあげること」だと手塚さんは言います。
「子どもに何か質問した際、子どもの答えを待ちきれずに『こうだったんだよね?』『こういうことでしょ?』と勝手に答えを決めつけてしまったり、矢継ぎ早に質問を投げかけたりしてしまうことはよくあると思います。そうすると子どもは次第に、大人の顔色をうかがって『多分こういうことを言ったほうがいいんだろうな…』なんて考えるようになってしまうんです」
自分の思いや考えよりも相手に合わせることを優先するようになってしまうと、自分自身のことに集中することが難しくなっていきます。子どもが素直に自分自身と向き合えるようにするために、子どもが自分の言葉で話してくれるのを「信じて待つ」という姿勢、そして子どもの声に耳を傾け、認めてあげることが大切です。
またもう一つ大切なのは、子どもができたことを見つけて「よかったね」「よくできたね」とほめること。その際、「大人の基準」ではなくあくまで子ども目線で「できた」ことを認めてあげることが大事です。
「たとえばお手伝いやおかたづけをした際、大人の感覚では『未熟で足りない』と感じることもあると思うんです。そういった時、ついつい手出しや手直しをしてしまいたくなりますが、そこはグッとこらえて、子どもが精一杯やり切った結果を認め、できたことや良いところを探してほめてあげてください」
子どもなりにすごくよく頑張ったのに、「もうちょっとできたよね?」とか「もっと頑張って」などと、大人の経験や価値観、先入観のままに話してしまうと、子どもの自信や能力の芽を摘むことになってしまうと手塚さんは言います。
また、もう一つ気をつけたいのは、子どもが目標を達成できなかった場合のフォロー。子どもがもし失敗してしまったり、頑張っても目標を達成できなかった場合には、どんな声かけをしたらよいのでしょうか。
「目標を達成できなかった、という事実は受け入れながら、前回より成長したところ、できるようになったことなどを認めてあげるようにしましょう。『できなかった』『だめだった』という失敗の記憶で終わらすのではなく、こんなにできるようになったね、次はこれにチャレンジしよう、という次につながるポジティブな気持ちで終わらせてあげることが大切です」
◆本番直前にできることはある?
しっかり練習や勉強を繰り返し、心を整えても本番が目前になると緊張感は高まってしまうもの。子どもが「本番」を目前に控えた時、周囲ができるサポートはあるのでしょうか?
「本番前は『頑張れ!』という声かけよりも『大丈夫だよ』など、安心させるような声がけをしたほうが良いと思います。子どもは常に頑張っていますから、『頑張れ!』という言葉はむしろプレッシャーになってしまうことも。『こんなに期待してくれているのに、できなかったら自分の責任だ…』なんて感じて、やるべきことに集中できなくなってしまうこともあります。ですから、できるだけ安心するような言葉で送り出してあげてくださいね」
こうした声かけの他にも、子どもにとって『お守り』になるものを用意するのも効果的なんだそう。
「必ずしもモノでなくても構いません。本番前は○○を食べる、この服を着る、この靴を履くなど、どんなことでもOKです」
お守りになるものがあることで、「これがあれば安心する」という神経回路ができ上がっていきます。ハイタッチをする、ルーティンを作るなど、子どもが安心できる何かで構いません。中には好きなアニメのヒーローになりきると勇気がでて頑張れる、なんて子もいるのだとか。子どもの様子を見ながらここ一番の時の「お守り」を持っておくのがおすすめです。
「本番に強い」ということは、緊張をしないということではなく、緊張しがちな本番でも自分自身がやるべきことに集中できるということ。そのためには「ワクワクする」「楽しい」というポジティブな感情と、小さな成功体験を繰り返すことで育まれる自信が欠かせません。
大事なのは、子どもがさまざまなことに挑戦できる環境作り。その上で、子どもの『できた!』という小さなステップを見逃さずに拾い上げ、子どもに伝えてあげるようにしましょう。その積み重ねが、子ども自身の自信や達成感、自己効力感になり、「勝負強さ」へと繋がっていくはずです!
プロフィール
手塚 幸恵さん
株式会社さちうえる代表取締役。MPP認定メンタルコーチ、シナプソロジーアドバンス教育トレーナー、健康運動指導士など複数の資格を有する。2002年から母校の専門学校にて人材の育成に取り組むほか、附属スポーツセンターで幅広い世代に水泳・水中運動指導を行い、地域住民の健康づくりに貢献。地域住民のために活動したいという思いから、2015年フリーインストラクターへ。自治体より委託を受け、公民館での介護予防教室・健康教室を年間130回担当。2021年に起業し、現在は介護予防事業の他に、子どもの心身の健康づくりのためにメンタルトレーニング教室も開催している。