
意外と身近にあるお出かけ&学びスポット!遺跡・古墳の魅力とは?
最終更新日:2024/10/08
昔の人々の暮らしや活動の痕跡である「遺跡」。その数は、全国に何と47万2,071か所にものぼります(文化庁『埋蔵文化財統計資料』2021年度)。これは全国のコンビニの数(約5万6千店舗・日本フランチャイズチェーン協会2024年8月発表)をはるかにしのぐ数。今から数万年前・数千年前と聞くとはるか昔のことで、その暮らしぶりも遠いものに感じますが、今私たちが暮らしている地域にも大昔の人たちが生活していた痕跡があると思うと、意外と身近に感じられたり、「どんな暮らしをしていたのかな?」なんて興味がわいてきますよね。
そこで今回は、関西外国語大学教授であり、『全国子ども考古学教室』のホームぺージの制作・運営を行う『むきばんだ応援団』副団長としても活動されている佐古和枝先生に、遺跡や古墳の魅力・楽しみ方についてお話を伺いました。
◆身近にあって、目から学べる考古学の魅力
遺跡や遺物などから、歴史や昔の人々の暮らし、地域文化の個性などについて調べる「考古学」。
「難しそう」というイメージを持つ人や「なじみが薄い」と感じる人は少なくないかもしれませんが、佐古先生によると、実は考古学は、老若男女問わず誰でも楽しみながら学べる学問なのだとか。
「一般的に学問は、難しい専門用語がたくさんでてきて、それが理解できないと前に進めないことが多い世界。でも考古学の場合、遺跡や古墳など実際に過去の人々がつくった『モノ』が残っているので、まだ文字が読めない子どもや難しい文章が読めない小学校低学年の子どもでも、そこに何があったか、どんな暮らしをしていたかを想像したり、楽しみながら学ぶことができるんです」
全国に47万か所以上ということは、単純計算すると47都道府県それぞれ1万か所の遺跡があるということ。これだけあれば、私たちが住む地域にも何かしらの遺跡がありそうですね。そんな「身近さ」は、考古学の魅力のひとつといえます。
「みなさんが通学や通勤に使う道や、よく行くお店の近くなどにも遺跡があるかもしれません。ただ、古墳は土がもりあがっているのでわかりますが、それ以外の多くの遺跡は地下に埋もれた状態だったり、建物を建てる時に壊されたりもしています。壊れてしまった遺跡も含め、どこにどういう遺跡があるかは、各自治体の教育委員会が遺跡地図を作っています。お子さんと一緒に、お住いの地域の遺跡について調べてみると、意外な発見があるかもしれませんよ」
◆「古墳」には、ロマンがいっぱい!
貝塚や竪穴住居、ムラの跡など、遺跡にも様々がありますが、「古墳」はその中でも代表的なものの一つと言えます。
古墳とは、昔の権力者のお墓のことで、日本には大小あわせて16万基ほどあると言われています。形も多彩で、代表的なものとしては、鍵穴のような形の前方後円墳や、大きな四角形に細い長方形を組み合わせたような前方後方墳のほか、円墳、方墳、帆立貝式古墳などがあります。
この中で、大きいのは前方後円墳。歴史の教科書に載っていた、鍵穴のような形をした巨大な古墳を印象深く記憶している人は少なくないのではないでしょうか。全国でいちばん大きい前方後円墳は、大阪の大山古墳(仁徳天皇陵古墳)で、墳丘の長さが486mもあります。
「古墳は地上に土を盛り上げて作るので、見てわかりやすいことが魅力のひとつだとおもいます」と佐古先生は言います。古墳時代は3世紀~6世紀。大型の重機もトラックもない時代に、どのようにしてこれほど大きな構造物を建設できたのか…実際に古墳を前にすると、そんな疑問を持つとともに、「人類ってすごいことができたんだ!」と思わず感心してしまうことでしょう。
「古墳を訪れることによっていろいろな想像を巡らせられることも、楽しさのひとつです。なぜこの場所にお墓をつくったのだろう?どうやってつくったのだろう?どんな人たちがつくったのだろう?これだけ大きなものをつくらせることのできるリーダーって、いったいどんな人だったんだろう?…などなど、ちょっと想像してみるといろいろ気になってくると思います」
古墳がその場所につくられた理由は、たとえば「交通の重要な拠点だから」や「そこが自分の勢力圏の一角だから」など、いくつかの可能性が考えられます。あるいは「尾根の切れ目から海が見えるから」とか「あの山が美しく見えるから」、はたまた「自分の支配領域を見晴らせるから」など、古墳から見える景色にその理由が隠されている場合もあるでしょう。
「大事なのは、いきなり正解を求めることではなく、まずは楽しく親子で想像してみること。子どもたちから思いもよらない意見が飛び出してきて、ハッとさせられることもあるのではないでしょうか」
◆子どもの好奇心が非認知能力を育む
佐古先生たち「kid’s考古学研究所」が運営するWEBサイト『全国子ども考古学教室』では、考古学に関する新聞コンクール(Kid’s考古学新聞コンクール)を実施しています。
当初、小学校高学年を対象としてスタートしたこのコンクール。蓋を開けてみると、真っ先に応募してきたのは小学2年生の女の子。それで、急遽全学年対象に変更したそう。中には幼稚園の頃から古墳が大好きで、古墳の名前の漢字を親御さんに習いながら、応募資格となる小学校入学を待って応募してきた子どももいたと言います。子どもたちはなぜ、遺跡や古墳に魅かれるのでしょう?
「ひとつには、実際に1500年前とか5000年前など、想像もできないような遠い古代の人々がつくったモノ、本物を見たり触ったりできるからでしょうね。大学の授業で、5000年ほど前の縄文土器のカケラを学生にまわすのですが、『ホンモノですか!触っていいんですか?』と大騒ぎです。もうひとつもには、考古学の研究対象は人間の生活すべてですから、なにかしら自分自身の関心事がそこに含まれているからではないでしょうか」
昔の人の生活様式は今とはまったく異なります。「でも、同じ人間ですから、考えること、感じることは、現代人のわれわれとそれほど変わらないと思います」と佐古先生は言います。
「実際には、わかりませんけどね。そういう前提で、『自分ならどんな風に暮らしただろう』と想いをめぐらせてみることは、子どもたちにとってとても大切なことだと思います」
「歴史学は、永遠に正解を教えてもらえないパズルのようなもの」と佐古先生。いろいろな証拠物件や情報を集めて、「こうだったのではないか」と想像するものの、それが正解かどうかは、「縄文人や弥生人に聞かないとわからない」ということがたくさんあるのだそう。
「それでも、想像してみることによって、いろいろなことに気がつくのです。電気や水道など、現代社会では当たり前のことが、決して当たり前ではないということや、そもそも『国境』とか『国籍』などなかった時代に人々は行きたいところに自由に行っていたのだ、とかね。現代社会は、インターネットで何でもすぐに答えが出てきます。でもそれは、自分で想像したり、自分で苦労して調べる楽しさを知るチャンスを奪われているということだと思います」
近年、主体性や知的好奇心といった『非認知能力』が注目されています。非認知能力は、教えられて養われるものではなく、子どもたちが自発的に何かに興味を持って「もっと見たい!知りたい!」という意欲や行動があってこそ育まれていく力です。
「『当時の人たちはどうしていたんだろう?』と疑問をもった時、誰かに答えを教えてもらうのは簡単ですが、たぶん、すぐに忘れてしまうと思います。自分で答えを探す方が、時間はかかっても楽しいし、自分で調べたことは忘れません。遺跡や古墳は、『?』の宝庫です。いっぱい『?』をみつけて、答え探しを楽しんでください。そうやって、古代人に思いを馳せると、想像力が鍛えられ、隣にいる友達にも、会ったこともない遠い異国の人達にも、思いを馳せることのできる優しい人になれますよ」
◆遺跡や古墳はお出かけスポットにもおすすめ!
遺跡や古墳の中には、発掘されたのちに公園として整備され、古代のくらしの跡に触れられる場所もたくさんあります。
「たとえば、鳥取県にある『妻木晩田(むきばんだ)遺跡』もそのひとつです。日本海を見下ろす小高い山の上にある弥生時代の遺跡で、住居跡や有力者たちの墓も復元されています。古墳時代になるとムラがなくなり、古墳がつくられました。史跡公園として整備された広大な敷地は子どもたちにも大人気の場所。勾玉作りなど、考古学の体験学習もいろいろ用意されています」
遺跡や古墳と聞くと郊外の開けた広い土地や森林を分け入った場所などにあるイメージが強いかもしれませんが、実は都市部にも遺跡公園や古墳はあり、たとえば都心の東京タワー近くにも古墳(芝丸山古墳)があります。
屋外へのお出かけや遊びを思い切り楽しめる秋。楽しく遊びながら地域の歴史や風土について学んだり、昔の人の暮らしに思いを馳せ、想像を膨らませられる遺跡や古墳は、お出かけスポットとしてお勧めしたい場所のひとつです。
「遺跡や古墳に関する情報は、各自治体のHPで検索すれば出てきますし、『全国子ども考古学教室』のホームぺージ(https://kids-kouko.com)では、都道府県別の代表的な遺跡や古墳を調べることができるページ『行ってみよう~全国遺跡&博物館マップ』や歴史系博物館のリンク集がありますので、ぜひお出かけの参考にしてみてくださいね」
遺跡や古墳、博物館に行けば、現物やレプリカなどを見ることができます。それらの「モノ」を目にして何かを感じたり、疑問を持ったりする…そんな自分自身の「感性」を出発点に、思い切り想像したり好奇心を広げられることが、考古学の魅力です。
古墳の上から景色を眺めてみると、目に入る建物などは現代のものですが、海や山といった地形は基本的には当時と変わらないはず。「この海、この山を眺めながら、古代の人々はどんなふうに暮らしていただろう」なんて想像してみると、古代人が自分にぐっと近づいてくるような気がするはず!
この秋はぜひ、子どもと一緒に遺跡や古墳に足を運んで、「古代のロマン」を感じてみてはいかがでしょうか。
プロフィール
佐古 和枝さん
鳥取県米子市出身。同志社大学大学院修士課程修了。専攻は考古学。関西外国語大学教授。同大学で考古学を教える一方、「むきばんだ応援団」副団長として、国史跡妻木晩田遺跡の普及・活用にむけて活動している。主な著書は、「吉野ヶ里~繁栄した弥生都市」、「ようこそ考古学の世界へ」、「海と山の王国~妻木晩田遺跡が問いかけるもの」など多数。
制作協力
特定非営利活動法人 むきばんだ応援団
1999年2月、鳥取県にある妻木晩田(むきばんだ)遺跡の保存活動をきっかけに結成。以来同年4月、遺跡の保存決定後は、妻木晩田遺跡の魅力を伝える活動を中心に、WEBサイト「全国子ども考古学教室(https://kids-kouko.com/)」の制作・運営、『kid’s考古学新聞コンクール』の開催、オンライン交流会など幅広い活動を展開する。



