「プレゼンテーション力」を高めるために、幼児期からできる取り組みとは?
最終更新日:2024/08/19
ビジネスの場はもちろん、教育の現場でも近年注目が高まりつつある「プレゼンテーション力」。就職活動や入試における面接といった場面だけでなく、日常のコミュニケーションにおいても、「自分のアイデアや思いを相手に分かりやすく伝える力」は欠かせないものであり、だからこそ子ども時代からぜひ磨いておきたい能力のひとつではないでしょうか。
「プレゼンテーション力」とはいったいどのような能力なのでしょうか?そして、それは子どものうちから鍛えることができるのでしょうか?これまで多くの自治体や学校でプレゼンテーション授業を行ってきた、一般社団法人 アルバ・エデュ代表理事の竹内明日香さんに、プレゼンテーション力について伺いました。
◆プレゼンテーション力って何だろう?
まず「プレゼンテーション力」とはどのような力のことを言うのでしょうか。竹内さんによるとプレゼンテーション力とは「自分の意見を相手にはっきり伝えられる力」のことであり、以下の3つの力に分けられると言います。
<考える力>
情報を集めて調べたり、調べたことに疑問を持ちさらに深めたりしながら、話したい内容を考えます。主語はあくまで自分。その中で、自分が本当に言いたいことは何なのかを選んでいきます。
<伝える力>
どんな目線で、どんな声で、どんなジェスチャーで相手に伝えていくのかを考えます。
<見せる力>
グラフやイラストなどビジュアル資料を使って、自分の意見を端的に示す表現力。どうしたら効果的なのかを探していきます。
もともと銀行員として国際金融の舞台で活躍していたという竹内さん。国内外のさまざまな企業の人材と関わる中で実感したのは、「日本人はどんなに良い商品・サービスがあってもその魅力を『伝える力』が弱いということ」だったと言います。
「日本財団の調査によると、日本人は大人も若者も『自分で世の中を変えられる!』と思う人が少ないことが分かっています。それは『どうしたら変えられるのか』ということを学んでいないことが主因だと思います。自分の信念のもとに周りを巻き込んでいけるような、『自己効力感』を持つためにもプレゼンテーション力は必要だと考えています」
JTB コミュニケーションデザイン調査 『コミュニケーションへの苦手意識』によると、日本人は人の話を聞くことが苦手な人が23%なのに対して、複数の人の前で発表するのが苦手な人は75%を占めるのだとか。その一方、大学入試では推薦と総合型選抜の合格者合計が一般入試を上回るようになっており、そのほとんどで試験に「面接」が課されているのが現状です。また就職活動においてもっとも重視されるのはコミュニケーション力だと言います。
「日本の教育課程では『読み書き』に多くの時間が割かれていて、『話す』時間が圧倒的に少ないのですが、一方で、その出口である進学・就職の場では『話す力』が求められているというのが現状です。理不尽な話だと思っています」
2020年から施行された新学習指導要領では「主体的・対話的で深い学び」が重視されるようになりました。これを受け、自分の研究や考えをまとめ、発表する授業を取り入れる小学校は増えつつあるといいます。しかしその一方、子ども達がプレゼンテーションの仕方や話し方自体を学ぶ機会は十分に確保されていないという現状もあります。
「誰一人取り残さないためにも、『話すこと』を体系的に学ぶことは必要ですし、そのためにもプレゼンテーション力を磨く授業を学校教育に取り入れてほしいと、現在さまざまな形で働きかけを行っています」
◆小さな頃から「プレゼン力」を磨くメリット
「プレゼンテーション」というと、大人がビジネスの場でスライドなどを使って大勢の人に何かを説明しているシーンが思い浮かびます。そんなイメージから「プレゼン=仕事」と考えがちですが、「自分の考えを伝えるために大切な力」と考えると、ビジネスの場や入試・就職活動といったシーンだけでなく、普段のコミュニケーションにも繋がるのがプレゼンテーション力であり、小さなころからプレゼンテーション力を磨くことには大きな意義があることがわかります。
「プレゼンテーション力は一朝一夕につく力ではありませんが、同時に、必ずしも才能やセンスが必要なものではなく、『練習すれば誰でもうまくなるもの』でもあります。だからこそ、小さな頃から取り組んでトレーニングしていくことが大切だと思います」
これまで未就学児や小学校低学年の子どもたちにもプレゼンテーションを指導してきた竹内さん。「発表をやりきること」「拍手をもらえること」といった小さな成功体験を積み重ねることで子どもたちに自信がつき、はじめは人前に出るのが苦手だった子が最後には目をキラキラさせている、といった場面も多くみられたと言います。
「どんなに小さな子でも、自分の意見は持っているものです。それを言う機会がないと、『意見を言わないでいること』が当たり前になり、せっかく持っている『意見のタネ』がどこにあるのかさえ分からなくなってしまうんです」
小さい頃から人前で意見を言うことが当たり前になれば、「自分の意見を発信できる、聞いてもらえる場がある」という心理的安全性が得られると竹内さん。それぞれが自分の意見を言い合うことによってさまざまな考え方を知ることができ、多様性を理解することにもつながります。
「人前に出て話すことを『恥ずかしい』『辛い』と思ってしまう前に、できるだけ小さなころから、プレゼンテーション能力を磨く取り組みを始めてほしいと思います」
◆家庭でできるプレゼンテーション力をアップする方法
小さなころからの取り組み次第で鍛えることができるというプレゼンテーション力。普段の生活の中で何かできることがあれば積極的に取り入れていきたいですよね。そこでここからは竹内さんに、プレゼンテーション力を高めるために家庭でできる取り組みについて伺いました。
<子どもが話せる環境を作る>
まずは、子どもが自分の意見を言えるような場を作ってあげることが大切。例えば、子どもと一緒に家族会議をしたり、好きなおもちゃや遊びについてプレゼンしてもらったりすることで、「自分の考えを伝えること」は「楽しいこと」なのだと知ってもらいましょう。プレゼンの内容は、たとえば幼児であれば、一枚の絵を描いてそれを見せながら話す、お気に入りのおもちゃの「すごいところ」を説明する、家族やペットの写真を用いて思いを伝えるなどなど。その時にできる範囲でやってみましょう!
<家を飛び出して、五感を鍛える>
家の中だけでは、子どもが話せる・話したくなるようなお話は限られてきてしまいます。そんな時はプレゼンの題材を探しに一緒にお出かけしてみましょう。五感を使っていろいろなものを感じるうちに、子どもの琴線にふれることが見つかることもあります。心を動かす何かを発見した時には、思う存分その気持ちを伝えてもらいましょう!
<どんな内容でもまずは受け入れること>
子どものプレゼンの良し悪しを親が決めることはできません。どんな表現、どんな内容であっても、まずは否定せず受け入れてあげることが大事です。「いいお話だね」「そんな考え方があるんだね」などと相槌をうちながら、じっくり聞いてあげてください。上手く言葉にできなかった・話せなかったという場合も、「『話したい』という気持ちは伝わってきたからOK!」と、「話そうとしたこと」自体に拍手を送りましょう。
<ほめ言葉には工夫を>
子どもの話を聞いてほめてあげることは大切ですが、「毎回同じ言葉でほめていると、子どもには見透かされてしまうんですよ」と竹内さんは笑います。一緒にその状況を喜んだり楽しんだり、新しい気づきに感謝の気持ちを示すなど、受け答えにも工夫が必要です。類語辞典やサイトなどを使ってほめるための語彙を増やすなど、大人も一緒に「話す力」を磨く取り組みをしても良いかもしれません。相手が喜んでくれることで子どもも嬉しくなり、「もっとやってみよう」という好循環が生まれますよ。
<発声の練習をする>
ぜひ発声についても注目してみてください。いい声が出ると、不思議と元気に前向きになります。発声練習はしっかりと!足を肩幅くらいに開いて立ち、口の周りが柔らかくなるように舌を回したり唇を震わせたりしながらほぐしていきます。日本語は腹式呼吸でなくても話せるので、ゆっくり息を吹く感じで話すのがおすすめです。
<子どもが自分の言葉で話す機会を>
たとえば病院に足を運んだ時、子どもの症状について親が話すというシチュエーションは少なくありません。自分の状態や感じていることを自分の言葉で話すことは、子どもの話す力の向上に繋がります。お買い物の際に店員さんに質問したり、動物園で好きな動物について職員さんと話してみたりするなど、知らない大人相手でも子どもが直接話せるように背中を押してあげましょう。どうしても直接話すことが難しい場合は、子どもの話を親が聞き「こう言っています」と伝えてあげるようにしましょう。
「私が現在、全国を駆け回って子ども達に伝えていること。それは『世の中は変えられる。そのためにプレゼンがある』ということなんです」と力を込める竹内さん。コミュニケ―ションがますます重視されるこれからの時代、そしてますますグローバル化が進む時代に生きる子どもたちにとって、自分の考えを自分なりの言葉や表現で伝える「プレゼンテーション力」は欠かせない力となってくるでしょう。
その力を磨くために、まずは子どもの言葉に耳を傾け、その考え方や感性を認め、自らの言葉で発言しやすい環境をつくることからスタートしてみてはいかがでしょうか。
プロフィール
竹内 明日香(たけうち あすか)さん
一般社団法人アルバ・エデュ代表理事。TOPPANホールディングス㈱等3社の社外取締役を務める。日本興業銀行で国際営業や審査等に従事後、独立。海外投資家向けに情報発信や日系企業のプレゼン等支援を提供して現在に至る。2014年、子どもの「話す力」の向上を目指す、一般社団法人アルバ・エデュを設立。研修や講演、アプリの紹介を通じて、公教育における「話す教育」の浸透を図っている。東京大学法学部卒業。公立小元PTA会長。二男一女の母。著書に『思いを伝える「話す力」』(Z会)『話す力で未来をつくる』(WAVE出版)ほか