注目されると力が発揮できない…「あがり症」克服のためにできることとは?
最終更新日:2025/09/24
人前で話すときに心臓がドキドキしたり、手が震えたり、頭が真っ白になって言葉が出てこなくなる・・・強い緊張によって心や体にさまざまな反応があらわれる状態は、一般的に「あがり症」と呼ばれており、こうした悩みを抱える人は、大人だけでなく子どもにも少なくありません。
「あがる」とはそもそもどういうことなのか、人はなぜあがってしまうのか。そして、あがり症と向き合い、乗り越えていくためのヒントについて、一般社団法人あがり症克服協会 理事長・鳥谷朝代さんにお話をうかがいました。
◆そもそも「あがる」ってどういうこと?
人前に立つとなぜかうまく話せない、自分の番が近づくとドキドキして落ち着かなくなる・・・そんな経験は誰にでもあるものです。その緊張が強すぎて毎回のように心や身体に大きな負担がかかる場合、それは「あがり症」と呼ばれる状態かもしれません。
あがり症になると、自分の力をうまく出せないだけでなく、「また失敗するかもしれない」「恥ずかしい思いをするのでは」という不安の連鎖を生み、挑戦する気持ちや自己肯定感を低下させるおそれもあります。特に子どもの場合は、失敗した体験がそのまま「人前に立つこと」への苦手意識につながり、成長のチャンスを逃してしまうことにも繋がります。
ただ、緊張によって「あがる」こと自体は、珍しいことではありません。一般社団法人あがり症克服協会のアンケートによると、なんと96%もの人が「人前であがった経験がある」、あるいは「人前だといつもあがってしまう」と答えているそう。
「人前で何かをするときは、誰しもが『失敗したくない』『恥をかきたくない』と思うもの。これは防衛本能の一種であり、『あがる』ことはごく自然な反応なんです」
鳥谷さんによると、まじめで正義感が強い人ほど「失敗してはいけない」「上手くやらなければ」、あるいは「緊張している自分が許せない」という思いが強く、あがりやすい傾向があるのだとか。他方、あがり症には遺伝的な要素はあまりなく、多くは後天的な環境や経験によって形成されるものなのだそう。「自分があがり症だから、子どももそうなってしまうのでは・・・」と過度に心配する必要はないといいます。
◆「あがる」ようになるのはいつから?
「あがる」ことが悩みとして意識されるようになるのは、小学校高学年以降が多いそう。逆に、幼児や低学年のうちは「あがり症」はあまり見られないといいます。
「なぜ高学年くらいから人前で緊張するようになるのかというと、それは『人にどう見られているか』を気にする気持ちが芽生えてくるからです」
国語の音読や授業中に指名されて答えるとき。学芸会や習い事の発表会、クラブや部活動の試合・・・学年が進むと「人前で何かをする=注目される」機会が増え、それに伴って「失敗したらどうしよう」「恥ずかしい思いをしたくない」と思う気持ちも強くなります。その不安が大きな緊張を呼び、「あがり症」へとつながっていきます。
「私も、現在はあがり症を克服するお手伝いをしていますが、実は以前は極度のあがり症に悩んでいました。小学校高学年の頃から人前で何かすることに苦手意識を感じていたのですが、中学1年の頃、国語の音読でひどく緊張して以来、その苦手意識がどんどん強くなり、音読がある日は保健室に逃げてしまうほど。『こんな自分はおかしいんじゃないか』と本気で悩みました」
しかし人の目を気にして緊張するということは、それだけ心が成長している証。他者を意識できるようになったという、前向きな変化の現れでもあります。
だからこそ、「緊張するのは当たり前」だと知ることが、あがり症克服への第一歩になります。あがりやすいお子さんには、まず「お友達もお母さんも、みんな緊張しているから大丈夫!」と安心できる声がけをしてあげるとよいでしょう。
◆あがり症を和らげるためには?
あがり症は「性格の問題」と思われがちですが、自律神経の働きによる身体の自然な反応の結果でもあります。
人は緊張すると交感神経が優位になり、心拍が速くなったり、呼吸が浅くなったり、手に汗をかいたりします。これは「危険から身を守ろう」とする身体の自然な反応です。ただ、この状態が長く続くと、声が震える、赤面する、頭が真っ白になる・・・といった強い不安反応へとつながってしまいます。本人にとっては非常に苦しい状態です。
「血圧や体温を自由自在にコントロールできないように、“緊張”も意志の力ではどうにもならないんです」と鳥谷さんは話します。
では、どうすればよいのでしょうか。あがり症を克服するには、「意志で抑える」のではなく、緊張とうまく付き合う工夫が必要です。
<緊張を感じたらまずは腹式呼吸>
「呼吸」は意識的にコントロールできる身体の機能のひとつ。呼吸を整えることで、心も落ち着いていきます。発表の前に深呼吸をひとつするだけでも、体のこわばりが少しほぐれてくれるはずです。
「緊張しているとき、私たちは無意識に肩や胸でハァハァと浅く呼吸をしています。そんなときは、ゆっくりとおなかで深い息をする、腹式呼吸を取り入れてみてください。おへその下の『丹田』と呼ばれる場所を意識しながら、深い呼吸を繰り返すことで副交感神経が働き、心身が落ち着いてきます」
とはいえ、いざ本番で人前に立ってから腹式呼吸をしようと思っても、なかなかうまくできるものではありません。だからこそ、ふだんから練習しておくことが大切です。
また、腹式呼吸とあわせて意識したいのが「姿勢」と「声」。良い姿勢をとり、おなかに力を入れて声を出すだけでも、身体が安定し、気持ちが整いやすくなります。鳥谷さんによれば、あがり症の人は姿勢が悪く、声が小さくなりがちなのだそう。日常の中で「あいうえお」とはっきり声に出す発声練習を取り入れるのも、発表や音読の準備として有効です。
<「やるべきこと」に集中!>
人前に出ると、緊張のあまり「頭が真っ白になってしまった」と感じたことはありませんか?これは、緊張によって冷静さを失い、本来すべき行動や言葉が飛んでしまっている状態です。
「『緊張したらどうしよう』『失敗したらどうしよう』といった不安に意識が向きすぎてしまうと、思考が止まってしまいます。そんなときは、『緊張している自分』に注目するのではなく、『今、自分がやるべきこと』に意識を向けるようにしてみてください」
ピアノの発表会、スポーツの試合、学校で人前で話すとき・・・どんな場面でも、周りの反応や結果が気になるのは当然です。けれど、まずはこれまで努力してきた自分を信じて、「どう見られるか」より「やるべきことに集中する」ことが大切。「準備や練習で培ってきた力を出し切る」ということに気持ちを向けましょう。
<丸暗記よりも“要点を押さえた準備”を!>
人前で話すときは、事前の準備と練習がとても重要です。ただし、内容を丸暗記しようとすると、少し言い間違えただけで焦ってしまい、その後の流れまで崩れてしまうことも。
「一言一句正確に言おう」とするのではなく、「伝えたいポイント」や「話の流れ」だけをしっかり頭に入れておけば、たとえ途中でつまづいても、落ち着いて話を続けることができます。要点をつかんでおけば、どこかでつかえてしまっても立て直すことができますし、より自然に、自分の言葉で伝えられるようにもなります。
◆子どものあがり症をやわらげるために、親や大人ができること
学校での子どもの様子は、家庭からはなかなか見えにくいものです。授業での発表や発言、あるいは友達とのやりとりのなかで、子どもが緊張したり、不安を抱えていたとしても、親はそれに気づけないことがあります。子ども自身も「緊張した」「失敗して恥ずかしかった」といった思いはうまく言葉にできないことが多く、つらさを抱えたままになってしまうことも。
「家では練習どおりにできるのに、発表会や試合の本番になるとうまくいかないという子も少なくありません。そんなときは、家での何気ない時間に『今日はどうだった?』『緊張した?』と声をかけ、話をじっくり聞いてあげることが大切です」
また、あがり症の克服法として効果的な手法のひとつに「ビデオフィードバック」という方法があります。自分の話す様子を客観的に見て改善につなげる行動療法として知られており、これを子ども向けに、もっと気軽に取り入れることも可能です。
たとえば、子どもが好きな絵本や歌を披露する様子をスマホで撮影し、一緒に見ながら「上手だったね!」「楽しそうに話せてたね」とポジティブな声をかけると、自信を持つきっかけになります。自分の姿を客観的に見ることで、緊張を和らげるだけでなく、自己肯定感を育むことにもつながります。
「無理に『人前で話せる子』にしようとする必要はありません。まずは親子で楽しく取り組むことがいちばん!プレッシャーをかけず、成功体験を少しずつ積み重ねていくことが、『あがり症』を予防したり克服すること、そして将来の自信や表現力にもつながっていきますよ」
あがり症は、特別な弱点ではなく、誰にでも起こりうるごく自然な反応です。緊張しやすい子どもでも、大人のあたたかい声かけや日々のちょっとした工夫によって、少しずつ自信を育んでいくことができます。
近年は、調べ学習やグループでの発表など、子どもたちにも人前で話す機会が増えてきています。そうした場面を成長のチャンスに変えるためには、「うまく話す」ことより「伝えることを楽しむ」姿勢を育てることが大切です。緊張とうまく付き合いながら、自分の言葉で思いを届ける力を、少しずつ伸ばしていきましょう!
プロフィール
鳥谷 朝代さん
一般社団法人あがり症克服協会 理事長。中1の本読みで極度のあがり症に。「話し方講座」と出会い、17年間苦しめられたあがり症を克服。かつての自分のように人知れずあがり症で苦しむ人の助けになりたいと思うようになり、2004年「あがり症・話しベタさんのためのスピーチ塾®」を開校。誰でも楽にあがりを改善する方法を確立し、克服へ導いた受講者は、7万3000人を超える。2014年、全国初の元あがり症によるあがり症のための協会「一般社団法人あがり症克服協会」を発足。主な著書に「12歳から始める人見知りしない技術」(秀和システム)、「人前であがらずに話せる方法(大和書房)」などがある。





