
子どもの将来のために、家庭でできる投資教育とは?
最終更新日:2025/06/12
多くの人にとって身近なものになりつつある「投資」。2022年からは高校の家庭科の授業で「資産形成(投資)」が授業に組み込まれるなど、若年層においても投資や資産形成について学ぶことがますます重要視されるようになってきています。
子どもの未来のためには避けて通れない金融投資に関する教育。でも、親世代の中には「投資」と聞くと「何となく手が出しづらい」と考える人も少なくないのではないでしょうか。
そこで今回は、ファイナンシャルプランナーであり、子ども向けのお金の教育講座「キッズ・マネー・ステーション」を主宰されている八木陽子さんに、「投資とは何か」という基本的なことから、投資教育の重要性、そして家庭でできる取り組みについて伺いました。
◆そもそも「投資」って何?
「投資」という言葉には、どこか難しそうで手が出しづらいイメージがつきまといます。特に親世代にとっては、「リスクが高い」「損をするかもしれない」と、投資を敬遠する人も少なくありません。
投資とは「将来の成長を見込んで、資本や資源を投じること」。一般的に「投資」というと、多くの人が株や不動産、暗号資産といった「金融商品」を思い浮かべがちですが、実はこうしたお金を増やすことを目的とした金融投資だけでなく、自分自身を成長させるための「自己投資」も投資に含まれると八木さんは言います。
学校で学ぶ以上の知識やスキルを身につけるために塾や習いごとに通うこと。知識を深めるために本を買って勉強すること。こうした行為も、より良い将来をめざすための立派な「投資」です。つまり投資とは、お金に限らず時間や労力なども投入して未来の価値を生み、人生をより豊かにするために今できる準備のことを指すものであり、私たちの多くが、さまざまな形で「投資」をしているものなのだと言えます。
◆どうしていま「投資教育」が注目されているの?
「これまで日本では、自己投資によってスキルや技術を磨き、自ら働いて収入を得ることはよしとされてきた一方、金融投資によって『お金にも働いてもらう』という感覚はそれほど一般的ではありませんでした」
「老後は年金で何とかなる」という時代は、もはや過去の話。少子高齢化が進む現在の、そして将来の日本において、年金で老後の生活費が十分賄える保障はなく、国や社会が個人の生活を丸抱えしてくれるわけでもありません。自分の人生を自分で守るため、早いうちから資産形成について学び、知識を持つことは必要不可欠になってきています。
2024年から新NISA(少額投資非課税制度)が始まり、投資初心者や若年層でも資産形成を始めやすくなりました。政府や金融機関も「投資=特別な人のもの」というイメージを払拭し、より多くの人に取り組んでもらえるよう、制度の整備と情報発信を強化しています。
また教育現場でも変化が起きています。2022年には高校の学習指導要領改訂で金融経済教育の内容が拡充され、家庭科では投資信託についても学ぶようになりました。それに伴い、小学校や中学校でも少しずつ金融リテラシーを育むための取り組みが始まっています。
八木さんによると、日本の金融教育はこれまで国際的に見ても遅れをとってきたと言います。しかし、2024年4月には日銀や証券業協会、金融庁などが連携する「金融経済教育推進機構(J-FLEC)」が発足し、これまでバラバラだった教育資源を統合・体系化する流れが加速しています。
投資の制度や体系だった「投資教育」が整備されつつある今、投資教育は「一部の人だけが関わる特別な話」ではなく、誰もが日常生活のなかで学ぶべき常識へと変わりつつあるといえます。
◆金融投資における「リスク」とは?金融投資のメリットとは?
とはいえ、金融投資に対してはどうしても「リスクが伴う」というイメージがつきもの。そして、そのリスクを気にして、金融投資に消極的な人が多いのも現状です。そもそも金融投資の「リスク」とはどういったものなのでしょうか。
「日常会話で使う『リスク』という言葉は、『危険』や『マイナスの結果』など、良くないことが起こる事を意味します。しかし、金融の世界における『リスク』は、株価や為替市場などの変動の『幅』のことを指します。例えば株式の価格は、下がることだけでなく上がりすぎることも『リスク』のうち。変動の幅が大きいということは、それだけ予想外のことが起こりやすいということなんです」
「今がいい時だから暗号資産に投資しよう!」などと考えることはもちろん、逆に「金融投資は良くないものだから絶対に手を出すな!」といった極端な考えをもつこともリスクのうち。金融投資には「良い時と悪い時がある」ということを理解し、日常使う「リスク」という言葉の意味とは分けて考えることが、金融投資を正しく学ぶための第一歩となります。
一方、金融投資のメリットにはどういったものがあるのでしょうか。そのひとつとして八木さんが挙げるのは、「物価高に対応した資産形成をしやすい」という点。
「日本は長くデフレ状態にあり、『何でも100円で買える』という時代が続きました。そのため、物価上昇の話を聞いてもピンとこない人が多かったのですが、ここ最近の急激な物価高で状況は変わってきました。100円をただ持っているだけでは、いつまでたっても100円のまま。物価が上昇すれば当然、その100円では同じものが買えなくなってしまうんです」
実際、日本銀行ではデフレからの脱却と経済の安定を目指して、物価を安定的に2%上昇させる目標を導入しています。これから先、ますます物価が高くなっていくことが予想されるなか、「物価上昇に連動しやすい」と言われる株式や投資信託をはじめとした金融投資を行うことは、生活を守る上でも重要な意味を持つと言えるでしょう。
◆いつから始める?子どもの投資教育
「子どもはまだ先入観がないからこそ、柔軟にお金の仕組みを理解できるんです」と話す八木さん。子どもの頃からお金や投資について学ぶことは、将来への考え方にも良い影響を与えると言います。早いうちから投資教育や金融投資を始めるメリットはそれだけではありません。
「金融の世界では、実は“時間”が一番の味方なんです。早いうちから始めれば、目標に応じて選べる方法も多いですし、長く続けることで無理なく資産を育てることができるんですよ」
今の時代、お金について学ぶことは特別なことではなくなりつつあります。親世代も構えずに、子どもと一緒に楽しみながら投資についての知識を深めていきたいですね。
それでは、投資教育はどのように行えばよいのでしょうか。まず、投資教育を始めるまえに、お金を使うこと、お釣りをもらうことなど基本的なことから始めましょう。ものの値段を知ることやお小遣いを管理して使う体験などを通して、使う・貯めるなど「お金」に関する基本的なルールを覚えていきます。
お金の基本が理解できたらいよいよ投資教育をスタート。子どもによって興味を持つタイミングや理解度が違うでしょうから、様子を見ながら挑戦できるといいですね。八木さんによると、早い子では小学校高学年くらいから投資教育をスタートしているとのことです。
おすすめは、株式の講座や投資の講座などに親子で参加すること。中には投資を夏休みの自由研究のテーマにする子もいるのだとか。大人でも金融に疎いという人は少なくないでしょうから、この機会に子どもと一緒に学んでみるのもよいかもしれません。
大人と違い子どもはフィルターがかかっていないので、発想も自由。「お金のことは大人の方が分かっているはず」などと思ったりせず、同じスタートラインに立って始めてみると、大人にとっても学びや思わぬ発見があるかもしれません。
◆家庭でできる投資教育
普段の家庭生活の中でも「投資」について学ぶことは可能です。ここでは普段の生活に取り入れられる投資教育についてご紹介します。
<ゲームを活用する>
金融に関するゲームにはさまざまなものがあります。例えばボードゲームの「モノポリー」では、サイコロを振って周回しながら、土地や不動産の売買、建設を繰り返し、資産を増やしていきます。また「こどもお金すごろく」では、イベントやクイズでお金と社会の仕組みを楽しく学べます。
<子ども向けの金融教育の書籍を読む>
絵や図を豊富に使い、子どもにも分かりやすいような言葉で説明してくれる、子ども向けのお金の本も実はたくさん出版されています。書店に行って子どもが興味を示したものや、年齢や理解度に応じて合うものを選んで子どもと一緒に読んでみましょう。
<お年玉を実際に投資信託などに預ける>
実体験型の投資教育として、小額からでも始められる「投資信託」を利用する方法も。「預けたお金は今こうなっているよ」と時折経過を見せることで、少額資産運用の仕組みを実感を持って学べますし、長期運用による複利効果も期待できます。
<実際に証券会社で株を購入してみる>
ゲームやおもちゃ、アニメ・キャラクターコンテンツ、車や鉄道、お菓子…子どもが好きなものや興味を持っている分野の関連株を購入するのも、実践的で有効な投資教育です。株式を購入すると、「自分のお金がこの会社を応援している」という実感が得られ、投資に対する関心が高まります。さらに、その企業のニュースや業績にも自然と目が向くようになり、ひいては社会の仕組みや経済の動き、会社の役割について学ぶきっかけにもなります。
「好き!」「知ってる!」から入る投資は、子どもが投資を「身近なもの」と感じられるうえ、実体験を通じて学べる絶好の教材になります。興味のあるジャンルから一緒に株式を購入する企業を選ぶプロセスそのものが、貴重な学びになります。
いかがでしょうか。「投資教育」ときくと、「お金を増やすためのスキルを学ぶもの」なんて考えてしまいがち。でも実際には、子どもがこれからの社会の中で「自分で考え、選び、責任をもって行動する力」を育む大切な学びであり、「お金」を媒介にして社会や経済の仕組みについて実践的に学べるものでもあるんですね。「投資」について楽しみながら学ぶという経験そのものが、子どもにとって将来の大きな財産になるのではないでしょうか。
プロフィール
八木 陽子(やぎ ようこ)さん
株式会社イー・カンパニー代表取締役、キッズ・マネー・ステーション代表。ファイナンシャルプランナー、キャリアコンサルタント。2005年からお金教育・キャリア教育を普及する「キッズ・マネー・ステーション」を主宰し、所属する全国の講師たちと、小・中・高等学校にて授業や講演などの活動実績が多数。2017年度の文部科学省検定の高等学校家庭科の教科書に日本のファイナンシャルプランナーとして掲載された。著書や監修本に「お金は子どもに預けなさい」(経済界)、「おさいふのかみさま」(フレーベル館)、「10歳から知っておきたいお金の心得」(えほんの杜)など。その他「あさイチ」「ウワサの保護者会」テレビ等のメディア出演も多数。



