「ゲーミフィケーション」で「ニガテ」もワクワクするゲームに!
最終更新日:2024/07/17
勉強やお手伝い、習い事。どんなことにも子どもが自ら積極的に進んで取り組んでくれたら理想的ですが、子どもにも大人にも好き嫌いや得意・不得意があるものです。勉強が嫌い、お手伝いが苦手、お出かけの支度についつい時間がかかってしまう…そんな「ニガテ」や「つまらない」を、ゲームの手法を取り入れる「ゲーミフィケーション」が解決してくれるかもしれません。
「ゲーミフィケーション」とは何でしょう?そして、子育てにはどのように取り入れたらよいのでしょうか?一般社団法人 日本ゲーミフィケーション協会代表のきっしー(岸本好弘)さんにお話を伺いました。
◆子ども自ら「やりたい」と思わせる、「ゲーミフィケーション」の手法とは?
「実は親の『良かれと思って』が、子どもにとって一番『やりたくない』というパターンが多いんです」ときっしーさん。子どもがやりたくない、できない、苦手と思うものは「無理やりやらせる」のではなく、自分からやりたいと思うように働きかけることが大切だと言います。
「大切なのは『嫌いにならないように』ということ。勉強やお手伝いなどに『やらないと怒られるから』などといった理由で取り組んでいると、それは子どもにとって辛い・難しいものになっていきます。子どもが自分から『やりたい』と言って取り組むほうがモチベーションが上がるのに、その逆をやってしまっていませんか?『子どもは未熟だから、指導しなければならない』と親が思ってしまっていることも多いのではないでしょうか」
一方、「ゲームが大好き」という子どもはたくさんいます。子ども達がゲームに夢中になるのにはさまざまな理由がありますが、その根本は「自分がやりたいと思っている」からだときっしーさんは言います。勉強やお手伝い、日常生活の「苦手ごと」に、子どもが能動的・積極的に取り組んでくれるよう、子どもと相性の良いゲームの要素・ゲーム感覚を取り入れる「ゲーミフィケーション」は有効な手法のひとつと言えます。
きっしーさんが代表を務める一般社団法人日本ゲーミフィケーション協会では、ゲーミフィケーションを「楽しくてハマってしまうゲーム要素を活用して、能動的に人を行動させる仕組み」と定義しています。
「たとえばアクションゲームでは、最初のステージの難易度はとても低くなっていますよね。最初のステージをクリアできるとプレーヤーは『このゲーム、得意なのかもしれない』と思うようになります。また、ステージをクリアすると画面のエフェクトや音楽などを使って、クリアしたことを褒めてくれます。これもまた、次のステージに進むモチベーションに繋がります」
「やり遂げた、褒められた、だから次へ行ってみたい」…ゲームにはプレーヤーに「もっとやりたい!」と思わせる楽しい仕掛けがたくさんあります。この夢中になれる要素をうまく子育てに組み込むことができれば、子どもに自分から「やってみたい!」というワクワクを与えてあげることも可能だと言います。
◆苦手克服には「ゲーミフィケーション」がおすすめ!
自分から進んで行うことが多い「好きなことや得意なこと」よりも、「苦手なこと」にこそゲーミフィケーションを使うとうまくいく場合があるときっしーさんは言います。
「大人から見て簡単だと思うことも、子どもにとっては難しくて辛いことかもしれませんし、得手・不得手は人それぞれですから、苦手そうなことに着目して楽しくできる方法を探してみてはどうかと思います」
自分の子ども時代を思い出し、子どもと同じ目線になって生活を見直してみると、意外と困難なことが多いかも。勉強でも教科ごとにやる気に差があったり、最初の一歩が踏み出せずに進めなかったり、ゴールまでの逆算ができず思った通りにならなかったりと、苦手だと思うところにも個人差があります。
どうしたら子どもが楽しんで自分の意志で行動できるようになるのか。そのための「仕組み」や「ルール」を考えることから「ゲーミフィケーション」はスタートします。
「ゲーミフィケーションを取り入れる際、大事なのは親自身もプレーヤーになることです。『子育て』というゲームは長く、すぐに結果が出ると思うとイライラしてしまうこともあるかもしれません。子どもは親の思い通りにはならないものです。『このモンスターをどうやって攻略しようか』というぐらいの気持ちで取り組んでみてはいかがでしょうか」
◆ゲーミフィケーション協会の「ゲーミフィケーションデザイン6要素」
それでは実際、プレーヤーをワクワクさせる「ゲームの要素」とはどのようなものがあるのでしょうか?日本ゲーミフィケーション協会が理論化した、ゲーミフィケーションデザイン6要素をご紹介していきましょう。
1) 能動的な参加:楽しそう、やってみたい!
ゲームは自分の好きな時に始められて、いつでもやめられます。難易度の選択など、自分が一番楽しいと思えるモードで取り組めるところも大きなポイント。子ども自身に「いつやるか」「どれぐらいやるか」などを選ばせたり、ミッションやクリアなどの楽しそうな言葉を使うとよいでしょう。
2) 達成可能な目標設定:ちょっと頑張れば自分にもできそう!
RPG(ロールプレイングゲーム)なら弱い敵から強い敵に、パズルゲームなら易しい面から難しい面へと、ゲームではプレイヤーがさまざまな工夫や努力をして課題を乗り越え、一歩ずつ次の目標へ向かって進みます。これを日常に取り入れるなら、大切なのはスモールステップ。まずはごく簡単な目標を設定して、「できる!」を体感させてあげましょう。
3) 称賛を演出:やったことをほめられると嬉しい!
ゲームをクリアすると、派手なクリア画面が現れたり、効果音が鳴ったりして「称賛」されます。自分の頑張りが成功につながったと分かれば、やる気もアップ。どんな小さなステップアップでも、目標がクリアできたらまずはほめること!音の出るおもちゃを使うなど、ちょっと大げさなぐらいにほめてあげることも大事です。
4) 即時フィードバック&ソーシャル要素:すぐに反応がある、仲間がいる!
ボタンを押すとキャラクターが動いたり、操作すると同時に画面が切り替わったりと、ゲームではすぐに反応や評価が返ってくるため、快感と安心感を得られます。また、もう一つ大切なのが仲間の存在。一人ではできなくても一緒に頑張る仲間や応援してくれる人がいると「頑張ってやってみよう」と思えるもの。行動を起こしたときにはすぐに反応し、応援してあげるなど、親が子どもを「応援する人」になることで、「あきらめずにやってみよう」という気持ちがわいてきます。
5) 成長の可視化:だんだんうまくなるのが分かる!
ゲームはプレイしていくにつれてレベルが上がったり、ステージが進んだりと、自分が成長する様子が目に見えて分かります。普段の生活でも、頑張りを可視化できるよう工夫しましょう。目標を壁に貼ってできたものから丸をつける、シールを貼るなど、一目で自分の成果が分かると「できるようになってきた!」と自信がつき、さらに上を目指すきっかけにもなります。
6) 独自性の歓迎:クリアするためにさまざまな工夫してOK!
自分の好きな武器を集める、自分なりの攻略方法を研究する、自分の得意なプレイスタイルを探すなど、ゲームはプレイヤーが工夫をこらすことで、より楽しく遊ぶことができます。生活の中でも、目標を決めたなら「どうやったら達成できるか」をただ教えるのではなく、それを達成するためにはどうしたらよいのかを自分で考える余白を与えてあげるといいですね。答えは示さず、本人が納得してクリアできるよう見守ってあげましょう。
「ゲーミフィケーション」の要素はこの6つ。これらすべてを取り入れないといけないわけではなく、この中の要素が1つでも入っていればOKです。
また、現在すでに苦手ごとの克服に取り組んでいる方で、今一つ上手くいかない、子どもが積極的に取り組んでくれないという人もいるかもしれません。そんな時、この6要素から何か1つの要素を加えてゲーム性を高めてみるのも方法のひとつ!子どもはもちろん親も一緒に楽しめるようなゲーミフィケーションデザインに挑戦してみてくださいね。
◆日常生活に「ゲーミフィケーション」取り入れよう!
それでは実際、子育てにゲーミフィケーションを取り入れているご家庭では、どのように取り組んでいるのでしょうか?事例をご紹介します。
【寝かしつけ】「寝る=難しいこと」だと気づき、ゲーミフィケーションを取り入れた例
・能動的な参加
好きな本を一緒に読む、タブレットで好きなお話を聞くなどの、布団に入りたくなる仕掛けを作る
・達成可能な目標設定、称賛を演出
とにかく目だけつぶってみる、ゆっくり呼吸をしてみるなど、すぐにできる目標を設定する。できたらすぐにほめる。「できる・スゴイ」が効果絶大!
・成長の可視化
表を作り、できたらチェックする。チェックで埋まったらごほうび
・独自性の歓迎
ベッドの周囲を自分の好きなぬいぐるみで埋め尽くした「ぬいぐるみ王国」を作る。また「雨音ミュージック」など子ども自身が落ち着けそうな音をみつけて聞く
【遅刻しないように家を出る】「逆算が苦手」な娘のために父が一緒に考えた例
・達成可能な目標設定、成長の可視化
起床から家を出るまでに行うことを整理し、それぞれ何分かかるか計算する。何時に起きれば間に合うのかを逆算して表を作り、時計の下に貼る。父と娘それぞれのチェック欄を作り、目標の時間までにできた行動に毎日チェックを入れていく。項目はできるだけ細かく、スモールステップを心がける。
・称賛を演出
すべて時間通りにできるようになるには何日も必要だと認識し、一つでもできたらほめる。一つひとつの小さな積み重ねが大切。できることは当たり前ではないという意識で、とにかくほめて伸ばす。
「ゲーミフィケーション」のゴールは、その子が自分で考え、自分で決め、自分で行動できるようになることだときっしーさん。その力は、AIがますます発展し、今までになかったことを実現していくこれからの時代に欠かせないものだと言います。
自分の嫌い・苦手な物事にポジティブな感情で向き合い、時間をかけて見事クリアする。そんな経験を積み重ねることは、子どもの自己肯定感と課題解決力を高めることにも繋がってくるはず。「ゲーミフィケーション」というアイテムで、子どもと一緒に「ニガテ」「つまらない」の攻略にチャレンジしてみてはいかがでしょうか!
プロフィール
岸本 好弘(きしもと よしひろ)さん
一般社団法人 日本ゲーミフィケーション協会代表(賢者Lv98)。1959年兵庫県生まれ。1982年京都産業大学 理学部計算機科学科卒業。1982年から約30年にわたり、ナムコ、コーエーにてゲーム開発を手がける。その後、6年間、東京工科大学メディア学部特任准教授。専門は、ゲームデザイン、ゲーミフィケーション。2018年より現職。著書に「ゲームはこうしてできている」などがある。好きな食べものはオムライス。