いよいよ夏本番。海や川などの水辺で安全に楽しく遊ぶために必要なこと
最終更新日:2024/07/06
いよいよ夏!海や川など、自然とふれあう水辺のレジャーが楽しいシーズンの到来です。しかし残念ながら、楽しいはずの水辺のレジャー中の事故も、毎年のように起こってしまっています。
せっかくの夏、そして自然とのふれあいを、心から楽しい思い出にするために。水辺で子どもたちを遊ばせるときに必要な準備や心構え、安全対策などを、NPO法人Safe Kids Japanの吉川優子さんに伺いました。
◆正しく「水辺の危険」を理解しよう
暑い季節がやってくると増加する「水の事故」。悲しいことに、水辺での事故のニュースは後を絶ちません。そして、その水辺での事故に巻き込まれるのは子どもが多く、たとえば海上保安庁がまとめた遊泳中の事故の年代別発生状況(平成24年~28年)によると、海水浴やシュノーケリング、あるいは磯遊びといったマリンレジャー中の事故の内37%、およそ3分の1が10歳未満と10歳代の子どもたちだと言います。
また、(公財)河川財団のまとめによると2003~2023年の場所別の死者・行方不明者(中学生以下の「子ども」)の約6割は河川と湖沼池となっており、さらに厚生労働省の「人口動態調査」の調査票情報(平成22年~平成26年までの5年間:0~14歳)によると、5年間で屋外の溺水は189件発生、3歳~14歳までの多くの年齢における「不慮の事故」の死因のうち、「交通事故」に次いで多いのが「溺水(屋外)」というデータもあります。
日本は「水」が身近にある国。海・川・湖などの水辺は、夏の屋外レジャーのお出かけ先の定番になっています。しかし身近に自然に触れ、自然を感じられる場所であるからこそ、自然ならではの「危険」もまた、身近に潜んでいるということを忘れてはなりません。
たとえば「水深が浅いところなら大丈夫」と私たちはつい考えがちです。しかし実際には、水深わずか数cmの場所でも水難事故にあう可能性はあると、吉川さんは言います。
「なぜ水が危険なのか、端的に言えば『人は水のなかでは呼吸することができないから』です。たとえ数cmの水深であっても、そこに顔が浸かってしまえば、人は息をすることができません」
加えて、海や川などには「自然の流れ」があります。波打ち際に立ったとき、わずか数センチの高さの波でも、思いがけない力の強さを感じて驚いた経験がある人は少なくないのではないでしょうか。体重が軽く、足の踏ん張りがきかない子どもともなれば、小さな波でも簡単に足元をすくわれてしまう危険性があります。さらに海の中には沖に向かって強く流れる、幅わずか10~30cmの「離岸流」というスポットがあり、この流れに乗ってしまうとあっという間に沖に流されてしまいます。
川にも、カーブの外側や、川幅が狭い場所、水の落ち込みがある場所など、急に流れが速くなる場所があります。「自然」は人にはコントロールできないもの。たとえ波や水の流れが穏やかに見えても、あるいは整備された海水浴場やキャンプ場などであっても、常に危険が潜んでいると考えたほうがよいでしょう。
とはいえ、「海や川は危ない」「だったら出かけること自体をやめよう」という考えになってしまうと、夏ならではの楽しみも半減してしまいますよね。吉川さんも「海や川に行かなければ、海や川を『知らない』子になってしまいますし、そのほうがよほど危険です」と話します。
「海や川といった自然に触れさせること自体はとても大事なことだと思います。ですから、まず大切なのは、水がなぜ危険なのかを把握し、その危険を回避できるようにきちんと準備してから遊ぶこと。正しく知ることと、正しく準備することが重要なんです」
たとえば、キャンプや登山といったアウトドアのレジャーに出かけるときには、安全を考慮しながら、靴や服など準備を充分に整えてから出かけるのが一般的ですよね。でも水辺のレジャーの場合はなぜかそういった「備え」がおろそかになり、水着やタオル、着替えで十分といった考えになってしまいがちだと吉川さんは言います。
「水に入るのに水着を着ているだけでは無防備の状態と同じです。しっかり準備をしてから出かけましょう」
◆事故が起こってからの対処法よりも、起こる前の予防を!
水の事故に対する「備え」というと、事故が起こったときにどうすべきかといった「対処方法」が取り上げられがちです。しかし、吉川さんは「対処よりも事前準備を」と力を込めます。
「もちろん対処方法を知っておくことも大切です。けれども現実として、仮に対処方法を知っていても、いざというときに冷静に行動できる人は限られます。ましてや私たちは素人なのですから、パニックに陥ることもあるでしょう。事故が起きてしまってからでは遅い、ということを認識して、事故を未然に防ぐためにできる備えをすることが最も大事だと思います」
事故とは「まさか」のときに起こるものであり、誰の身にも起こり得ることでもあります。それでは実際に、その「まさか」の状況を未然に防ぐためにはどのような準備と心がまえをすればよいのでしょうか。
「まず大切なのはライフジャケットやマリンシューズ、ラッシュガードなどを用意し、正しく着用することです。そしてもうひとつは絶対に子どもから目を離さないこと。幼児であれば、たとえライフジャケットなどを身につけていても、自分の手の届く範囲で遊ばせる『タッチ監視』を心がけるようにしましょう」
川下りやボート遊びといったシチュエーションで使うイメージの強いライフジャケット。それだけに「ライフジャケットなんて、ちょっと大げさかな…」と考える方も中にはいるかもしれません。しかし、ライフジャケットは特別な状況や、「いざ」というときにだけに着用するものではありません。万が一水の事故が起こった場合、ライフジャケットを着用していれば、生存率は2倍以上も上がるというデータもあります。
「事故が起こるのは一瞬です。たとえば自宅のお風呂場で水遊びをさせていて、親がトイレに行くなど、お風呂場にいる子どもから少しだけ目を離したすきの事故もたくさんあります。ましてや水辺の場合は自然の中なので、もっともっと予期せぬ危険な要素にあふれています。『うちの子は大丈夫』と過信することなく、子どもからはぜったいに目を離さないようにしながら、保護者さんも楽しく一緒に遊びましょう」
◆水辺のレジャーを安全に楽しむための必須アイテム
<ライフジャケット>
子どもの年齢や成長に合わせて選び、正しく着用しましょう。子ども用のライフジャケットを選ぶポイントは、●目立つ色 ●浮力材が入っている ●股下ベルトがあり、脱げにくいもの ●頭部を守り、浮力をサポートするピローつきのもの がおすすめです。
<マリンシューズ>
濡れた地面や岩場など、滑りやすく、障害物も多い水辺。グリップ力が高く、足のケガや転倒を防止できるマリンシューズは、子どもに限らず大人にとっても水辺のレジャーの必須アイテムです。水辺で遊ぶときはビーチサンダルを履く方が多いかもしれませんが、脱げやすく、流されやすいビーチサンダルはNGです。必ずかかとのあるマリンシューズを履きましょう。
注意したいのはサイズ。子どもの靴選びではワンサイズ上のものを選びがちですが、大きなものを選ぶと水中で動きにくく、しかも脱げやすくなってしまうので、ジャストサイズのものを選ぶようにしましょう。
<ラッシュガード>
ラッシュガードは、もともとサーファーが「ラッシュ(rash:擦り傷)」から皮膚を「ガード(guard:保護)」するために着用し始めました。最近は紫外線対策のために水辺のレジャーでは欠かせないアイテムとなっていますが、ラッシュガードには、紫外線だけではなく、肌を傷などから守る役目も担っているのです。ファッショナブルでかわいいデザインのものもたくさんありますので、こちらも親子で楽しく選び、着用しましょう。しっかりと肌を守るためには、半袖よりも長袖タイプがおすすめです。
◆安全への備えも「楽しむ」ことが大事!
ライフジャケットなどの備えが安全のために必要なものだということは、大人であれば理解できます。でも子どもに「安全のためだから」と言ってもなかなか身につけてくれなかったり、親が必死になればなるほど子どもが敬遠してしまう・・・なんてこともありますよね。
そこで大切なのは、こうした備えを「楽しい」と子どもに思ってもらえるようなひと工夫。たとえば、ライフジャケットにもさまざまなデザインがありますし、マリンシューズも軽くておしゃれのものがたくさんあります。サイズなどは親がしっかり吟味する必要がありますが、デザインや色などは子どもの好きなものを選ばせてあげれば、子どもにとっても「自分自身で選んだ、大切なもの」になるはず。
また、実際に自宅でライフジャケットを着用してみたり、そのままお風呂やビニールプールに入ってライフジャケットのぷかぷかと浮かぶ感覚を楽しむのもおすすめです。靴を履いたまま水たまりに入ったりすることはためらうこともあると思いますが、アクアシューズを履いて水の中を歩いてみるというだけでも、子どもにとっては普段味わえない感覚を感じられる、楽しい遊びになるはずです。
ライフジャケットやマリンシューズ、ラッシュガードなどを決して特別なものではなく、「楽しいもの」「水辺で遊ぶ際に必ず身につけるもの」という認識を小さな頃から持つことができれば、子ども自身も積極的に身につけるようになりますし、安心して水辺に出かけることができるようになるのではないでしょうか。
「ああいうことをさせたい、こういうことをさせたいとつい大人は思いがちです。でも、育児とか教育・保育の原点に立って、まず海や川などで遊ぶというその体験が、子どもにとってどのような学びになるのだろうか、というところを、子どもの目線でしっかり考えることが大切だと思います」と吉川さんは力を込めます。
自然と触れあわせたい、色々な体験をして何かを学んでほしい…水辺のレジャーに出かける際には、そういった親の「思い」だけではなく、子ども自身にとって必要なことなのか、ということもしっかり考えたうえで計画を立て、お出かけをすることに決まったらしっかりと準備をしましょう。
みなさんの海や川へのお出かけが、遊びと体験と楽しい思い出いっぱいのものになるように。事前に安全と安心をしっかり確保して、子どもたちを伸び伸びと水辺で遊ばせてあげましょう!
<参考サイト>
子どもの水辺サポートセンター(公益財団法人 河川財団)
https://www.kasen.or.jp/mizube/tabid107.html
プロフィール
吉川優子さん
2012年、長男の慎之介くんを水難事故で亡くしたことをきっかけに、2014年7月に一般社団法人吉川慎之介記念基金を設立し2024年まで代表理事として活動。「日本子ども安全学会」を発足し、水難事故予防と子どもの安全・事故予防の啓発活動を幅広く行ってきた。現在は「NPO法人 Safe Kids Japan」で事業推進マネージャーとして活動中。
制作協力
NPO法人Safe Kids Japan
「すべての子どもを予防できる傷害から守る」ことを目標に、米国ワシントンに本部を置く国際組織「Safe Kids Worldwide」や国立成育医療研究センター、産業技術総合研究所などと連携し、子どもの事故に関する調査・研究を実施するとともに、子どもの傷害予防に関する啓発活動を行う。東京都との連携サイト「こどものこどものケガを減らすためにみんなをつなぐプラットフォーム(https://www.safekidsninja.com/)」を運営。