語彙力・表現力・読解力を育む強力なパートナー!「辞典」の魅力と選び方
最終更新日:2024/05/23
子どもは成長とともにたくさんの言葉と出会い、語彙と知識を増やして豊かな表現力を身につけます。言葉を学び、語彙力を身につけていく上で欠かせないパートナーと言えば、真っ先に思い浮かぶのが「辞典」です。電子辞書が発達し、スマートフォンさえあればすぐインターネットで調べることが可能な現在ですが、紙の辞典には電子辞書やインターネットにはない利点や魅力もたくさんあります。
そこで今回は、株式会社Gakken 辞典チーム チーフディレクターの森川 聡顕さんに、辞典の魅力やはじめての辞典選びのポイント、さらに辞典を使った「遊び方」などについてお話を伺いました。
◆小学生向けの国語辞典にはさまざまな工夫が
「辞典」とひと口に言っても、国語辞典、漢和辞典、漢字辞典、英和辞典、和英辞典、ことわざ辞典など種類はさまざま。中でも国語辞典は、小学校で国語辞典の使い方の授業もあり、多くの人にとって最も身近でなじみ深い辞典と言えます。
そんな国語辞典ですが、実は幼児向け・小学生向け・中学生向け・高校生以上向けと細かく分かれていて、対象年齢ごとに、扱う言葉の種類や数はもちろん、用紙の種類・表紙・ケースの絵柄などさまざまな点が異なります。森川さんをはじめ作り手の方々は、子どもたちが辞典に愛着をもってくれるようにと日々考え工夫を凝らしているそう。
「小学生向けの国語辞典では、見出しの語数は35,000から40,000語くらいです。手に取ったときの重さや表紙のしなり具合、めくりやすい用紙など、造本と言われる部分にも配慮して作っています」
たとえば、最新版の『新レインボー小学国語辞典 改訂第7版』(Gakken)に至るまで、収録する言葉の見直しはもちろん、記事のオールカラー化や各ページ内にあるすべての漢字にフリガナを振るなどの改訂を行ったといいます。
また、この辞典には「ことば選びのまど」という特集ページも。たとえば「うれしい」を取り上げているページでは「うれしいをあらわすことば」として、「浮き浮き」「歓喜」「天にも昇る心地」「喜ぶ」といったさまざまな表現が紹介されています。
「近年、大人向けの類語辞典に注目が集まっていて、子どもにも役立つのではないかと研究を重ねて作った特集ページが『ことば選びのまど』です。おもに感情を表現する言葉を見出しにしていて、説明文を読むことで自分の気持ちを見つめ直し、よりぴったりな言葉・表現を学ぶことができるようになっています」
他にも、ふせんを貼った際にふせんの端が文字にかからないよう、上部の空白を多めにしたり、まだ紙を器用にめくれない小さな子どもの手先にあわせて紙を厚くしたりするなど、小さな子どもがより調べやすく、読みやすく、学びやすくなるように、紙の辞典は日々進化しています。
◆どんな力が身につく? 「辞典」の魅力とは
現代では、スマートフォン一つあればネット検索で言葉の意味を調べることができます。大人であればその中から自分に必要な情報を選び取ることができますが、真偽が分からない膨大な情報の中から、子ども自身が得たいもの、知りたいことを選ぶことは至難の業といえるでしょう。
一方、辞典の場合、編集者の方や監修の先生などが目を通した言葉が掲載され、過不足のない言葉で端的に説明されています。その情報の確かさと安心感は、辞典の魅力のひとつです。
また、紙の辞典の大きな特徴のひとつに「一覧性」が挙げられます。ある言葉を調べる際、電子辞書であればすぐ検索することができてとても便利。一方、紙の辞典の場合、ページを行ったり来たりすることがありますし、調べたい言葉の隣に関係のない別の言葉が載っているのが目に入ります。
一見不便にも思えますが、実は「言葉を学習する」「語彙を増やす」という点ではこれが大きなメリットになります。子どもは目端が利くので、自分の調べたい言葉を辞典で引くうちに、別の近しい言葉を発見したり、知らず知らずのうちに言葉を覚えることも。その時点では「余分な知識」であっても、結果として語彙を増やすことに繋がっていくのです。
調べたい言葉に最短距離でアクセスするのではなく、興味を持った言葉を調べる過程で、それ以外の言葉や知識と出会える機会があることも、紙の辞典の魅力のひとつです。
また、小学生など低年齢向けの辞典では、鉛筆などで書き込みがしやすく、消しゴムで消しやすい用紙が使われているそう。中には「辞典に文字を書き込むなんて!」と驚く人もいるかもしれませんが、こうした「書き込み」ができることもまた、紙の辞典の魅力であり有効な使い方のひとつです。
たとえば、ある言葉を辞典で引いた時に調べた日付を書き込んでおくと、自分の体験と言葉が結びつき、言葉をより確かに理解することに繋がります。書き込みをすればその分、自分が言葉を学んできた成果を実感できますし、たくさん書き込みをした辞典はやがて「自分だけの宝物」になっていくことでしょう。
◆いつから使う? どんな辞典がいい? はじめての「辞典」の選び方
辞典が一冊あれば言葉を調べられるのだと知ることができ、自分で調べるようになれば語彙が増えていきます。
「語彙力が上がれば自分の感情もより詳細に表せるようになり、表現力と読解力がアップします。また、自分の感情を知るということは、同時に他者への理解にもつながりますし、言語化することによってより良いコミュニケーションが取れるようにもなります」
語彙力・読解力・表現力の大切さが叫ばれる昨今。辞典はそのベースを形づくるものとして大いに役立ってくれるはずです。それでは実際、辞典を使った言葉の学習はいつ頃からスタートすることができるのでしょうか。
最近では、文字が大きく、掲載している語数が絞られ、大きなイラストや写真なども使われている幼児向けの国語辞典も出版されていて、辞典を使った学習は幼児期からでもスタートさせることが可能なのだそう。
「3歳から小学校2年生ぐらいまでは、言葉に興味を持って、覚える言葉の数が増える時期なので、その欲求に応えてあげるのは大切なことです。また就学前後の時期は音声と文字を一致させる時期でもありますので、目と耳を使って鍛えてあげることが必要です。一緒に文字をたどりながら読んであげれば、音と文字の一致にも役立つと思います」
このように、幼児期から辞典を使った学習に取り組むことも可能ですが、一般的には小学生になってから辞典を購入する例が多いと森川さんは言います。
「小学校の3年生で国語辞典、4年生で漢字辞典の引き方をそれぞれ習います。以前は小学校3年生に辞典を買う人が多かったのですが、近年では子どもが小学校1年生になるタイミングで辞典を購入する家庭も増えてきているんですよ」
それでは、「はじめての辞典選び」の際にはどんなポイントに気を付ければよいのでしょうか?
・子どもが良いと思ったもの
まずはシンプルに、子どもと一緒に本屋さんに行って、実物を見て選ぶということが大事です。メーカーによって用紙の色やインクの色合い、装丁などさまざま。実際に使うのは子どもですから、本人が感覚的に「良い!」と思ったものが一番のおすすめです。触った感じ、表紙やケースが好きなど、理由はなんでもOK。子ども自身が気に入ったものを選んだほうが、喜んで使うようになりますよ。
・子どもが好きな分野の言葉が載っている
例えば昆虫が好きな子であれば、より多くの昆虫が載っているとか、恐竜が好きなら恐竜に関する言葉が多く載っているとか、子どもの好みに合わせて選んでみるのもいいですね。一人ひとりの個性をみながら、より興味を持ってくれそうなものを選んでみてください。
・内容を比べてみる
辞典によってさまざまな特徴があります。たとえば「やばい」という言葉を引いて、プラスとマイナス両方の意味についての説明があるものや、類語や反対語の例が多く示されているものなど、辞典ごとの特徴を踏まえ、自分の子どもにはどんな力をつけさせたいのかという観点で選ぶのもいいでしょう。
◆「辞典」を使って遊んでみよう!
言葉を調べたり勉強に使ったりといった「お堅い」イメージも強い辞典ですが、実は辞典には「遊ぶ」という使い方も。親子で楽しめる辞典を使った遊びをいくつか森川さんに教えてもらいました!
<好きな言葉をたくさん調べる・目についたものを端から調べる>
動物や昆虫など自分の好きな言葉を引いていきます。好きなものならどんどん興味がわいてきて、関連ある言葉を次々に調べる「辞典サーフィン」になるかも。部屋の中にあるものなど、目についたものや気になったものを順に引いていくのも楽しいですよ。どんな説明が書かれているのか、親子で一緒に読んでみましょう。
<ページ当てゲーム>
数字をランダムに挙げそのページが開けるか競ったり、出題した言葉が載っているページを1回で開けるか競ったりするゲームです。分厚い辞典のどのあたりが何ページ目か、あいうえお順だとこの言葉はどのあたりにあるのかといった感覚を、ゲームを通してつかむことができます。たくさん遊んで辞典と仲良くなりましょう。
<ことば当てゲーム>
説明文を読んで、それがなんという言葉なのか当てるゲーム。いつも使っているものや目にするもの、聞きなれた言葉や好きな言葉など、親子で出題しあってみてください。「子ども向けの辞典だから」とあなどることなかれ。掲載されている言葉は35,000~40,000語程度にものぼりますから、大人でも知らない言葉がたくさんあるはず。「パパやママにも知らない言葉があるんだ!」なんて驚きも、言葉の奥深さや言葉を知る楽しさに繋がるかも!
<たほいや>
出題された言葉の、正しい説明文をどれか当てるゲーム。「ことば当てゲーム」より難しいものですが、次のようなルールで進めます。
1.親が辞典の中から言葉を選んで発表します。
2.子どもたちは、説明文を考えて紙に書いて、親に提出します。同時に親は、辞典の説明文を紙に書きます。
3.親が、集めたすべての説明文を読み上げます。
4.子どもたちは、辞典に書かれている、正しいと思う説明文を選びます。
辞典以外の説明文が、一人ひとりの個性が表れて、思わず笑ってしまうこともあります。
辞典には配列がありますが、小さな子どもにそれを説明しても飽きてしまうことが多いそう。いろいろな遊びをしながら辞典に慣れていけば、自然に配列などのルールを理解できるように!はじめは厚くて重いと感じる辞典でも、たくさん手に取って使ってみることで、その感じ方も変わってくるでしょう。
幼児から低学年は言葉の意味を知りたがる時期。「ぜひリビングに辞典を1冊置いて、気になる言葉があれば一緒に引いたり、読み聞かせをしたりしてみてください」と森川さんは言います。辞典の存在は言葉への興味関心を深めてくれますし、なぜなに期の解消にも大いに役立ってくれそうですね。
森川さんによると、辞典の購入が増えるのは毎年3月から5月ごろなのだそう。この時期に書店に行くとさまざまな辞典が並んでいると思います。各メーカーが工夫を凝らした辞典の中に、子どもの「パートナー」であり「宝物」になってくれる1冊があるといいですね!
プロフィール
森川 聡顕(もりかわ としあき)さん
株式会社Gakken 出版・コンテンツ事業本部 K12-2事業部 小中教材編集課 辞典チーム チーフディレクター。1969年生まれ。学習院大学大学院博士課程単位取得。日本語学校非常勤講師、高校非常勤講師などを経て、株式会社学習研究社に入社、辞典編集部に配属され現在に至る。『新レインボー小学国語辞典』『上級漢和辞典 漢字源』などを手がける。
協力:辞典協会
1946年4月1日発足。創立して70年以上、現在、会員は13社を数え、辞典の普及と安定した発行を図るとともに、「ことば」の規範となる辞典の普及を通じて、社会的・文化的貢献を続けている。