言葉にしない“伝え方”が、親子の信頼を育む。「ノンバーバルコミュニケーション」とは?
最終更新日:2026/01/25
家庭の中で、子どもが安心して過ごせているかどうか。その積み重ねが実は、子どもが自分の強みや個性をのびのびと発揮できるかどうかに深く関わっています。安心感を育てるためには、「どんな言葉をかけるか」を大切にしている方も多いでしょう。けれど実は、それと同じくらい大切なのが「どんなふうに伝えるか」です。
目線の高さ、微笑みのタイミング、うなずきや身のこなし。こうした言葉以外の関わり方は、親が思っている以上に、子どもに多くのメッセージを伝えています。このような“言葉にしない伝え方”は、「ノンバーバル(非言語)コミュニケーション」と呼ばれています。
今回は、一般社団法人ノンバーバルコミュニケーション協会代表理事の塚本敦未さんに、家庭の中で子どもとの関係をより豊かにするために役立つ「ノンバーバルコミュニケーション」の基本と、その実践のコツを伺いました。
◆ノンバーバルコミュニケーションとは?
「ノンバーバルコミュニケーションとは、表情や声、しぐさ、距離感など、言葉以外で行われるコミュニケーション技術のことです」と、塚本さん。気持ちや考え、安心感や緊張感といった感情の状態を、言葉を使わずに伝える働きがあります。
言葉以外のコミュニケーションというと、表情や身振り手振りを思い浮かべる方も多いかもしれません。でも実は、私たちはもっと多くの非言語の要素を無意識のうちに使っています。専門的には、ノンバーバルコミュニケーションは次の7つの要素に分けられるといいます。
〇動作行動(動作・視線・姿勢など)
〇身体特徴(身長、体重、見た目など)
〇接触行動(手を握る、抱きしめる、触れるなど)
〇パラ言語(声の高低、大きさ、リズムなど)
〇空間行動(対人距離など)
〇人工物の利用(服装、小物、メイク、香りなど)
〇環境要因(照明、空間、温度など)
「これらの要素が自然に重なり合うことで、親子の信頼関係は少しずつ育っていきます。親自身のコミュニケーションも、楽になりますよ」
◆家庭でできる“非言語”の工夫
たくさんの要素があるノンバーバルコミュニケーションですが、すべてを一度に意識する必要はありません。まずは、家庭の中で取り入れやすいものからで十分です。
たとえば、毎日の生活で自然と向き合う「照明」もそのひとつ。
「小学校低学年くらいまでは、子どもは言葉よりも感情で世界を理解しています。照明の色や明るさを意識するだけでも、安心感は変わります」と塚本さん。
昼間は自然光を取り入れ、夜はオレンジ系の間接照明に切り替えるなど、光にメリハリをつけるだけでも、子どもは落ち着きやすくなります。「夜は夜らしく過ごす」ことは、大人にとっても大切なのだそうです。
◆目線と距離が、心の距離をつくる
相手がこちらを見ていないと、不安になったり、話しづらく感じたりする・・・そんな経験は誰しもあるのではないでしょうか。ノンバーバルの中でも、「目」は気持ちが最も伝わりやすいサインのひとつです。特に子どもは、親の目線や視線の向きから気持ちを読み取っているといいます。
「お子さんと話すとき、目線を合わせることはとても大切です。ただ、意外と目を合わせた“つもり”になっている人が多いんです」
たとえば台所に立ちながら、背中を向けたまま「うん、うん」と返事をしていたり、何かをしながら話を聞いていたり。親も子どもも、スマホやテレビの画面を見たまま会話をする場面も、今は少なくありません。親としては聞いているつもりでも、目線が合っていない状態では、子どもは「ちゃんと話を聞いてくれていないのでは」という不安を感じてしまうことがあります。
理想は、しゃがんで子どもの視線まで体を下げること。ただし叱るときは、「真正面から向き合いすぎない」配慮も大切だといいます。
「体を少し斜めにするだけで、圧迫感が和らぎます。“対立”ではなく、“向き合う”姿勢を意識してみてください」
また、ボディタッチも安心感を伝える手段のひとつです。肩や胸など上半身にやさしく触れることで、「受け入れられている」という感覚が伝わりやすくなります。
「肩や胸に軽く触れてあげると、“許されている”“受け入れられている”という安心感が伝わりやすくなります。心臓のまわりへのやさしいタッチって、実はとても落ち着くんですよ。頭や手を触ることに加えて、心臓のまわりや肩など、上半身へのやさしいタッチもおすすめしたいです」
ギャング世代と呼ばれる2歳児など、なかなか言うことを聞かない子どもを叱るときは、つい腕を引っ張ったりしてしまいがち。しかしそうした時こそ、上半身をそっと包むようにハグしてあげることで、気持ちが落ち着くことも多いのだそうです。
「45センチ以内は“密接距離”と呼ばれ、心の距離が近い人しか入れない空間です。お母さんがその距離に入ってあげることで、子どもはぐっと安心感を覚えるんですよ」
◆子どもから“表現する力”を学ぶ
ここまでは子どもとの「落ち着いた関わり方」を紹介してきましたが、喜びやうれしさを伝えるときは、むしろオーバーなくらいの表現でかまいません。
「子どもは、感情を全身で表現してくれる最高の先生です」。子どもが「きれい!」「うれしい!」と感じたときには、大人も同じ目線で共感してみましょう。
大人の表現力は、子どもの約半分程度といわれているそう。大人が感情にふたをしがちな現代だからこそ、子どもの素直な感情に少し“乗ってみる”ことが大切です。
「完璧に合わせようとしなくていいんです。嬉しい、楽しい、悲しいなど、子どもの感情を一緒に味わうことで、大人自身も気持ちが楽になりますし、心の距離もぐっと近づきます」
だからといって、いつも笑っている必要はありません。常に笑っていると、かえって親の「本当の気持ち」が伝わりにくくなってしまいます。大切なのは、あくまでも「自然体」でいることです。
親子という関係性をあまり意識しすぎずに、同じ場面を一緒に感じたり、気づいたことを共有したりする。そんな「友達」や「仲間」のような感覚で向き合ってみましょう。そうすることで、「こうしなければならない」という思い込みやプレッシャーも、少しずつ手放せるはずです。
◆ノンバーバルコミュニケーションは、親自身も癒してくれる
子どもの気持ちに寄り添おうと意識すると、親が疲れてしまう場面もあります。実はノンバーバルコミュニケーションは、「親の心を落ち着かせる手段にもなる」と塚本さんは話します。
「たとえば『叱りすぎたな・・・』と思ったときは、自分の胸や腕を軽くさすってみてください。自分の体に触れるだけでも、気持ちが落ち着きやすくなるんですよ」
こうした“自分に触れる動き”には、自己安定(セルフコンパッション)の効果があるのだそうです。
「女性なら、スキンケアの時間を丁寧にとるのもよいですね。イライラしたり、不安が強い日には、ゆっくりと自分の顔に触れながらスキンケアをしてみてください。自分の顔にやさしく触れる行為そのものが、心を静かに整える、自分自身との非言語コミュニケーションなんですよ」
◆声のトーンだけでもこんなに違う!
どんな言葉を使っていても、声の出し方ひとつで、相手に伝わる印象は大きく変わります。声のトーンもまた、ノンバーバルコミュニケーションの大切な要素のひとつです。
「子どもと話すときは、少し低めで、ゆっくりとした声や話し方を意識すると、安心感を与えやすくなります。反対に、声が高くなったり、早口になったりすると、知らず知らずのうちに圧迫感を与えてしまうこともあるんですよ」
叱るときなどは、どうしても感情が先に立ってしまいがち。そんなときほど、少し気持ちを落ち着かせて、低めの声でゆっくり話すことを意識してみるとよいそうです。そう考えると、お父さんとお母さん、それぞれの声の特性を活かすことも、家庭でのコミュニケーションに役立ちそうです。
家庭での関わりは、お母さんだけでなく、お父さんにとっても大切な役割。一般的に、低めで落ち着いた声は安心感を与えやすいとされているため、叱ったり、大切な話をしたりするときは、お父さんが伝えるほうが落ち着いて聞いてもらいやすいかもしれません。
◆自然体のコミュニケーションで、親子がもっと楽に
最近は「叱らない子育て」なども話題ですが、子育ての正解はひとつではありません。塚本さんは「感情を抑えることが、必ずしも正解とは限りません」と言います。
「困ったときは、“困った”と伝えていいんです。無理に感情を抑え込むよりも、喜びや悲しみ、戸惑いといった気持ちをそのまま表に出すことで、親自身も楽になります。そんな親の姿を見て育つからこそ、子どもも自然と喜怒哀楽を表現できるようになります」
今は、小学校の授業でも、子どもが自分の考えを発表したり、プレゼンテーションを行ったりする機会が増えています。「表現力の豊かな子どもに育ってほしい」と願うなら、ノンバーバルコミュニケーションを意識し、身につけていくことはとても有効な手段と言えるでしょう。
たとえばスマートフォンで子どもの様子を撮影し、あとで一緒に見返してみるのもおすすめ。親やきょうだい、お友達との関わり方や、どんな表情・しぐさで気持ちを表しているのかを、子ども自身が客観的に振り返ることができます。視覚情報は子どもにとっても理解しやすく、「こんな表情してたんだね」と、親子の会話が広がるきっかけにもなります。
また、子どもの感情に寄り添うことは、親自身の成長にもつながります。
「ノンバーバルコミュニケーションは、相手を理解するだけでなく、自分自身を知るきっかけにもなります。花を見て『きれい』と感じたり、ドラマなどを見て感動したり、ときには泣いたり、趣味に没頭したり。子育て中は、どうしても自分のことは後回しになってしまうかもしれませんが、少しの時間でよいので、自分の感情に触れ、表現することによって、自分の引き出しがどんどん増えていきます。そうして小さな“感じる力”を育てることが、親子の日常を、少しずつ優しく、豊かなものにしてくれるんです」
いかがでしょうか。ノンバーバルコミュニケーションは、特別なスキルではありません。視線や声、しぐさなど、日常の中で少し意識するだけで取り入れられることができます。
最初からすべてを完璧にやろうとしなくて大丈夫。今日、目を見て話すこと。声のトーンを少しゆっくりにすること。そんな小さな一歩が、親子の安心感や信頼関係を育てていきます。できるところから、あなたらしい関わり方で始めてみてくださいね。
プロフィール
塚本 敦未(つかもと あつみ)さん
一般社団法人ノンバーバルコミュニケーション協会 代表理事。幼少期から演劇やミュージカルに親しみ、大学では映画演技・身体表現を専攻。卒業後はモデル・ウォーキング講師として活動する中で、「言葉を使わずに伝える力」に着目。アメリカに渡り全米コミュニケーション学会(NCA)にて専門家と交流し理論背景を深め独自のノンバーバルコミュニケーションメソッドを体系化。企業など大人を対象とする講座を中心に活動する一方、子ども向けのレッスンや保護者向け講座も通じて、ノンバーバルコミュニケーションの重要性を伝えている。
制作協力
一般社団法人ノンバーバルコミュニケーション協会
「人生にリミットをつけない選択」をテーマに表情・姿勢・声・身体表現などの非言語コミュニケーションを学ぶ研修サービスを提供。言葉だけに頼らず、自分らしく伝え行動できる人を増やすことで、社会のコミュニケーションの可能性を広げている。
https://nca-japan.or.jp/






